2020.1.10
爆発的に増加の一途をたどる情報量、多様化する生活者、それに伴いますます細分化・複雑化するコミュニケーション手段…。このような中で、EC通販売上をミッションとするダイレクトマーケティング担当者は、どのように日々の業務に向き合っていくべきなのでしょうか?
今回は、ダイレクトマーケティングにおける3つのトレンドを振り返ることで、これからの2020年、マーケターが成果を出していくために何が必要なのかを考えてみたいと思います。
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2019年、「サブスクリプションモデル」に大きな注目が集まり、大手企業からベンチャーまでさまざまな企業がサブスク型サービスに本格参入しました。「サブスク」という言葉は「2019ユーキャン新語・流行語大賞」にもノミネートされ、企業間だけでなく、一般消費者にも広く知られるワードとなりました。
・資生堂初のサブスクサービス、IoTスキンケア「オプチューン」を本格展開(2019年7月)
・契約数は? 人気車は? トヨタのサブスク「キント」の現状と今後(2019年2月サービス開始)
・日本初のナンバー1”サブスク ”サービスが決定しました!「日本サブスクリプションビジネス大賞2019」(2019年12月)
ここ近年サブスクリプションモデルが盛り上がってきた背景には「ユーザーのニーズの変化」があると、Zuora Japan株式会社代表の桑野氏は話します。
「このサブスクリプションサービスの広がりは、顧客のニーズが『所有から利用へ』『モノからコトへ』と変化していることが大きな要因です。この変化により、企業はモノが売れないプロダクト販売の限界を迎え、サブスクリプションビジネスへと舵を切るようになりました。アメリカの自動車メーカーであるフォードもサブスクリプション型のカーシェアリングサービスを始めました。これは、ユーザーのニーズが『車を所有すること』から『移動すること』へと変化していることを表しています。」(桑野氏、引用:https://ferret-plus.com/13232)
物の所有をしない代わりに、必要なサービスを必要な期間だけ少額ずつの支払で使うことができるサブスクリプションモデル。このようなモデルが生活に根付いていく中で、自社商品・サービスが「顧客に選ばれ、利用し続けてもらう」ために、マーケターはどのような工夫ができるのでしょうか。
私たちは、その鍵となるのが「顧客と直接つながり、その声をサービス開発なども含めたマーケティング全般にフル活用していくこと」だと考えています。
例えば、サービス申込み前の顧客へのアプローチにおいては、新規契約時と申込み後の実際の体験のギャップを減らす工夫が必要でしょう。「まずは買ってもらうこと」ではなく、「使い続けてもらうこと」が前提のサービスモデルで必要なのは「過剰なキャッチコピー・デザインのクリエイティブ」ではありません。仮にそのようなクリエイティブで獲得単価低く顧客を獲得できたとしても、広告コミュニケーションの期待値に沿わないと判断された時点で、即「解約」につながり、利益率の低下に帰結してしまいます。顧客の声(UGC)を積極的にマーケティングに取り入れ、「申し込んだ後にどんな体験が待っているか」のリアルなイメージを伝えるなど、ギャップを埋める努力が必要です。
また、顧客へのサービス提供や商品・サービスの改善においても、顧客と直接つながり、顧客の声を活かした取り組みを行っていくことが必要です。近年登場したサブスクリプションモデルは「顧客が自分のニーズにあわせてサービスを利用できる」ことが特徴であり、「ずっと使ってもらうために各顧客にどのような体験を提供し続けられるのか(=使い続けてもらうことが目標)」を考えることが重要になります。例えば、顧客がどのようにそのサービスを利用するかの傾向にあわせて個々人ごとにサービス提供の内容を変化させる、あるいは顧客の行動データを蓄積してサービス改善や次なるサービスの開発に活かすなど、生活者と一緒に作り上げていくマーケティングが求められます。
ダイレクトマーケティングの広告運用業務におけるインハウス化が徐々に進みつつあります。これは、広告主が代理店に広告の運用を依頼するのではなく、基本的には自社で一貫して広告運用を実施する動きが進んでいることを指します。
アメリカでは、2018年にANA(Association of National Advertisers:全米広告主協会)の調査対象マーケターの78%が、社内にインハウスエージェンシーがあると答えました(2013年は58%、引用:https://digiday.jp/brands/moving-marketing-house-control-speed-not-worth-hassle/)。日本でもインハウス化の流れは徐々に拡大しており、従来は代理店を通さないと出稿できなかったLINE Ads Platformでセルフサーブの提供が開始したり、インハウス化を進める広告主のインタビュー記事やノウハウが多く紹介されたりしています。
・LINE、運用型広告においてセルフサーブ機能の提供を開始 中小企業・店舗での広告運用のサポートを強化
・「インハウス化とは、つまりは自分事化」 ―メルカリが語るインハウス運用の是々非々 [インタビュー]
このインハウス化拡大の背景にはインターネット広告、特に運用型広告市場の拡大があると考えられます。
矢野経済研究所の調査(https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2228)によると、インターネット広告市場は年々拡大しており、2018年度は1兆6,950億円、2020年度には約2.1兆円まで成長、2023年度には約2.8兆円を突破する見込みとなっています。広告種類別でみると、検索連動型広告や運用型広告が引き続き拡大、広告分野ではソーシャルメディア広告や動画広告などの運用型広告の拡大に加え、アプリ広告や屋外デジタル広告などの成長が期待されています。
今後特に拡大が見込まれる運用型インターネット広告をインハウス化することにより、企業は自社内へのノウハウの蓄積、スピード感のアップ、自社顧客データとの連携などのさまざまなメリットが見込まれます。企業にとってインハウス運用しやすい環境が整ってきている今、今後もダイレクトマーケティング業界全体で、業務の一部をインハウス化する流れは進んでいくと考えられます。
一方で、運用型広告で成果をあげるためにもっとも大切な要素はクリエイティブであり、その制作には大きな時間・費用がかかることが、インハウス化を進める上での大きな課題となっています。ターゲティングなどメディア側の機械学習機能がより高度化している今、テキスト、バナーデザイン、ウェブサイト等全ての顧客接点において、顧客の心に響く「クリエイティブ」をスピーディーに展開していくことがもっとも大きな差別化要素となりますが、その制作は人が汗をかきながら感覚的に行っていることが多いのが現状です。
私たちは、今後インハウスでより効率的に成果を上げていくためには、このクリエイティブ制作の領域にいかに科学を持ち込めるかが大事だと言えます。「ツール」や「AI」を活用してクリエイティブの素材調達や制作そのものにかける時間はできるだけ削減し、効率的・科学的に「勝ちパターンのクリエイティブを生みだしていく」のです。それによって浮いた時間を、顧客が求めていることは何なのか、どんな情報が顧客にとって常に有益な情報であるのかなどの「コミュニケーション設計」に使っていくべきです。
シャンプーブランド「BOTANIST」を展開する株式会社I-neは、LPのデザインにInstagramのUGC(User Generated Contents)を活用している。パッケージのデザインからオンライン用の広告バナーやLPまで、クリエイティブの制作は基本的に全てインハウスで実施しているが、ツールを利用してLPデザインにUGCを取り入れることで、枯渇しがちなクリエイティブ素材の供給を効率的に行えているという。(引用:https://service.aainc.co.jp/product/letro/article/2019/botanist.html)
2019年は、アフィリエイト広告を取り巻く環境の変化についての話題が多い1年でした。
ダイレクトマーケティング企業にとって、初期投資を最低限に抑えて成果報酬型で取り組めるアフィリエイト広告はなくてはならない存在。しかしながら、Google検索アルゴリズムの変更により、特定キーワードにおいて今まで検索結果上位に表示されていたアフィリエイトサイトの順位が大幅に下落したり、Yahoo!の広告掲載基準の変更により、Yahoo!プロモーション広告にて、一部サイトを除きアフィリエイトサイトと判断されたサイトの広告掲載ができなくなったりするなど、プラットフォーム提供社により今後のアフィリエイト広告のあり方を揺るがすのでは?とも思われる変更が実施されました。
・【Google大変動】コアアルゴリズムアップデートによる2019年9月24日からの順位変動について
・Yahoo!アフィリエイト広告規制とは?規制背景から今後のマーケティング施策のヒントまでをわかりやすくご紹介!
これらプラットフォーム側のポリシー変更の背景には、「ユーザーの保護」と「サービスの品質向上」があると考えられます。近年、一部の悪質なアフィリエイターが報酬を求めるあまり虚偽や誇張表現を含んだ記事や広告サイトを制作しているケースが発生し、問題となっていました。こうしたプラットフォームのガイドラインを守らない悪質な広告や情報の乏しい広告サイトは、生活者の広告体験・消費体験を損ね、結果として広告主の不利益にもなります。また、こうした広告が多く掲載されることは、プラットフォームの信頼度を低下させ、ユーザー離れを招く一因になりかねません。このような背景からポリシーの変更に踏み切ったと推測されます。
スマホ普及や個人のインターネット利用時間の伸び、SNSやインターネット上での買い物の浸透などを考えると、アフィリエイト市場そのものが大きく縮小するとは考えにくいですし、むしろ市場は今後も伸びていくと予測されています。(アフィリエイト市場の伸びについて 参照:https://markezine.jp/article/detail/31790)
しかしながら、プラットフォームによるポリシー変更に象徴されるように、今後は信憑性の薄い情報は淘汰され、より信頼度の高いコンテンツが求められる流れにあることは間違いありません。企業は真の意味で自社商品の情報を発信してくれる協力者を増やしていく努力をし続けていくことが大切です。
マナラ化粧品を展開する株式会社ランクアップは、「会える通販」を掲げ、「1000meet up」企画として1年間で1000名の顧客に会うプロジェクトを実施している。顧客とたくさん会う機会を作ることで多くのファンと顔見知りの状態を作り、内輪感を作ることで社員と顧客の垣根をなくし、最終的には顧客に応援してもらえるような関係作りを目指している。(引用:https://service.aainc.co.jp/product/letro/article/2019/cosme_conversation.html)
サブスクリプションビジネスの伸長、広告運用業務におけるインハウス化が拡大の傾向、アフィリエイト広告における環境の変化など、ダイレクトマーケティングにおいてさまざまな新しい動きが見られる中、今後成果を上げていくために必要な共通キーワードは「生活者マーケティング」です。
生活者の声を取り入れた商品開発やサービス改善、生活者の声をコンテンツや広告のクリエイティブに活用することによる効果向上と業務効率化、ファンとの関係性を気付き真の意味で信頼感のある口コミを醸成していくこと…など、生活者と直接つながることができる現代の環境を活かし、それらをフルに活かしたマーケティングの推進が重要になるのではないでしょうか。
本ブログでは、2020年も「ダイレクトマーケティングにおける売上向上」をミッションとする企業の皆さまに向けて、「生活者マーケティング」をキーワードに皆さまの日々の業務に役立つノウハウや事例などをお届けしていきたいと思います。
記事公開日:2020.01.10