アップセル・クロスセルを促すことで顧客一人あたりの売上総額を上げ、効率よく収益性改善につなげたい―このような戦略を重視する企業が昨今、増加しています。マーケティング担当者として、今まさに「LTV改善」というミッションを担っている方も多いのではないでしょうか。
LTV改善に有効なマーケティング手法の一つとして、「ロイヤルティマーケティング」が挙げられます。
この記事では、顧客のロイヤルティ向上のためにまずは何から始めれば良いのか、複数の企業の取り組み事例も挙げながらそのヒントを読み解いていきます。
ロイヤルティ(Loyalty)とは、直訳すると「忠誠心」といった意味合いです。そこから派生してマーケティング用語としては、顧客の「愛着」「信頼」を表す意味で使われます。
「顧客ロイヤルティが高い」とは、「顧客がそのブランドに対して抱いている愛着・信頼の度合いが大きい」という意味です。また、「ロイヤル顧客」「ロイヤルカスタマー」といった言葉を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。これらは、「ロイヤルティの高い顧客」のことを指します。
ロイヤルティマーケティングとは、顧客ロイヤルティを高めるための取り組みです。すなわち、顧客のブランドに対する「愛着」「信頼」を育むための戦略を指します。
「顧客満足度」という言葉を知っている人は多いと思います。かつてマーケティングの世界で顧客満足度と言えば、「一回の購入で、商品に対してどれだけ満足感を持ってもらえたか?」を重視する考え方でした。
しかし、一回の購入でたとえ商品自体に不満が無いとしても、「注文から商品到着までのリードタイムが長い」「お客様相談室の対応が悪い」などサービス周りに不満を抱いてしまったら、次はもうリピート利用せず、競合他社への乗り換えが発生するかもしれません。
そこで、一度掴んだ顧客を離さずリピート利用につなげるためには、商品そのものに満足してもらうだけではなく、ブランドに対する「愛着」「信頼」の醸成、すなわちロイヤルティ向上こそが重要だという考え方が取られるようになってきたのです。
なぜ顧客ロイヤルティが大切なのか、さらに詳しく解説します。
昨今は、広告施策による新規顧客獲得が難しくなっています。理由は大きく2つあります。1つは、個人情報保護の観点からCookie規制が強化され、生活者のWeb上での行動を企業が追跡することが難しくなり、ターゲティング広告の効果が弱まっています。もう1つは、生活者が広告そのものを敬遠するようになってきたことです。特に、「いま必要な情報」の文脈から外れた広告に対して、“押し付け感”を抱いて嫌悪する生活者が増加していることが明らかになっています。
また、EC参入企業が急激に増加したことにより、それらの企業によって出稿される広告の総量自体も増加しました。例えばSNS広告(Instagram、Facebook等)のCPM(インプレッション単価)はここ数年、継続的に上昇しています。アライドアーキテクツが調べた調査によると、2019〜2021年にかけて、CPMは平均で約1.6倍上昇したことが明らかになりました。
このように「Web広告を打てば、新たな顧客を効率よく獲得できる」とは必ずしも言い切れない時代を迎えているのです。
それに加えて、日本は人口減少時代を迎えて就労人口も年々減っており、国内市場は縮小傾向にあります。
[出典]総務省|平成28年版 情報通信白書|人口減少社会の到来
このような社会背景の中で闇雲に「新規顧客獲得」に注力するよりも、一度接点を持った顧客にいかに長期的に繰り返し買ってもらうか、すなわち「リピーター育成」を目指すほうが成果につながりやすいと言えます。
つまり、ブランドビジネスを手掛ける企業にとっては「LTV向上」こそが優先的に力を振り向けるべき課題であり、長期リピーター育成のためには、顧客の「愛着」「信頼」の醸成が不可欠です。それゆえ、昨今数多くの企業が「ロイヤルティマーケティング」に対して関心を深めているのです。
次に、顧客ロイヤルティ向上による3つのメリットを解説します。
顧客が、1回の商品購入体験を通じて実際にその商品を使って、ブランドと接してみて、「このブランドが好きだ」という愛着・信頼を抱いた場合、次もまた同じ商品・ブランドを選ぶ可能性が高まります。
サブスクリプションサービスの契約期限がやってくるタイミングで「このサービス・ブランドが好きだから、引き続き契約しよう」と考えてもらえれば、解約率低下に寄与します。
商品・ブランドに対する好感を持つ顧客が増えれば増えるほど、リピーター数は増え、解約率低下を期待できると言えます。
顧客が1回の商品購入体験を通じてそのブランドを好きになり、「同じブランドの、他に気になっている商品も試してみよう」という思いを持つ場合もあります。すると、アップセル・クロスセルが発生しやすくなり、顧客単価上昇につながります。
顧客の「この商品・ブランドが好き」という気持ちが強ければ強いほど、他者推奨の行動が発生しやすくなると言えます。例えば商品の感想をSNSに投稿する、ECのレビュー欄に投稿する、オフラインで周囲の家族や友人にクチコミで広める、といった行動を期待できます。
顧客の「好き」という気持ちを高めることが大切だと述べてきました。
それでは、具体的にどんな施策に取り組めばよいのでしょうか?
「愛着」「信頼」「リピート利用」は、ブランドに対する総合的な満足度が向上することで発生します。
昨今、EC・D2Cビジネス等において「カスタマーエクスペリエンス(CX、顧客体験)」という言葉がよく使われるようになりました。カスタマーエクスペリエンスとは、購入前後を含めたすべての購買プロセスで顧客が得る体験や価値、メリットなどを指す言葉です。
一度は商品・サービスを購入してくれたとしても、サポートの質が悪かったら離脱・解約してしまい、もう利用してくれずリピーターにはならない場合も考えられます。だからこそ商品・サービスそのものの改善だけではなく、顧客との接点すべてが快適になるよう設計していくべきだ、という考え方です。
カスタマーエクスペリエンス向上のための3つの視点をお伝えします。
まずは、「顧客の声」と向き合い、顧客の思いや行動を正しく把握しましょう。
SNSやECのレビュー欄に投稿されているクチコミは、企業にとってはブランド成長のヒントが詰まった「宝の山」です。
生活者は、商品・サービスと実際に接触してみて、少なからず何らかの伝えたい思い(好き/嫌い)があるからこそ、その声を他社に見える場所に投稿しています。投稿された声から、正直な思い(気に入った点/改善要望)や行動(購買/解約の理由)を定性的に分析することで、顧客ひとりひとりを深く知ることにつながります。
UGC(生活者によるクチコミ)は「顧客を知る」ための源泉であり、UGCの収集・蓄積は不可欠だと言えます。
顧客の声を分析し、整理したら、マーケティングのプロセスに活かしましょう。
カスタマージャーニーマップとは、顧客の動き(行動・思考・感情)を時系列で可視化したものです。
購買プロセス全体を通して顧客がどのような動きをしているか把握し、各タッチポイントでどのような顧客体験をしてもらうのかを整理しましょう。
[出典]【事例付】カスタマージャーニーとは?概念、作り方を徹底解説
顧客からのフィードバックやデータを収集し、施策結果を評価しましょう。
「顧客はどのタイミングで離脱しているのか」「購買まで至っている顧客の行動パターンは何か」などを読み解きます。改善点を洗い出し、次に取るべき施策を決め、実行するという積み重ねによって、カスタマーエクスペリエンス向上につながります。
ここから、EC・D2C企業がロイヤルティ向上のために取り組んでいる事例をご紹介します。
クラフトビールで人気を博す、ビール製造メーカーの「ヤッホーブルーイング」。
同社の公式通販サイトを来訪するユーザーは、既に商品を試して好きになっている人が多いため、「クラフトビールの多彩な楽しみ方」を訴求するコミュニケーションを重要視しています。
<施策>
※アンケートは公式通販サイト会員やSNSでつながりのあるユーザーを対象に実施
妊娠、出産、産後、エイジングケアなど、女性のライフステージ変化における悩みや不安を解消する商品を展開するブランド「BELTA」。
同社では、顧客と長きにわたって良い関係を築き上げていく「CRM」の思想を重視しています。
<施策>
D2Cコスメブランド「DINETTE」。購入後も顧客がブランドから離れていかないように、「顧客にとって本当に必要なものは何か?」を常に把握するよう努めています。また、経営者自身も日頃から顧客とのコミュニケーションに参加。顧客体験向上のために必要な投資を行う経営判断を迅速にしています。
<施策>
D2C企業3社の取組事例を紹介しましたが、共通項として
という2点を読み解くことができます。
顧客を熱いファンに育て、愛着を持ってリピート利用してもらう、さらには、周りにおすすめしてもらうためには、主役は「商品・サービス」ではなく「顧客一人一人」だ、という考え方こそが大切です。
顧客一人ひとりの行動や想いを定性的に知るために、UGCの活用は必要不可欠です。
UGCの収集・蓄積は顧客ロイヤルティ向上のプロセスにおいても「企業の資産」になり得るものだと言えます。
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記事公開日:2022.04.18