ダイレクトマーケティング業界を牽引する経営者に聞く!最高のマーケティング人材とは?いま、必要とされるCMOの条件

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最高のマーケティング人材とは_ogp

今日のダイレクトマーケティングを取り巻く環境は、広告コストの高騰や各法律の厳格化、クッキー規制によるターゲティング・計測の正確性への影響、生活者のニーズや行動の多様化など、様々な変化と困難の連続です。

そのような中、幅広い視点を持ち、経営と一体となってこの変化の時代に立ち向かえるマーケターの育成が求められています。

そこで今回は、これまで多くのマーケティング人材とともにブランド成長を牽引してきた経営者である、オルビス株式会社 代表取締役社長 小林 琢磨 氏 と株式会社シンクロ 代表取締役CEO 西井 敏恭 氏に、「経営者に聞く、今必要とされるCMOの条件」というテーマでお話を伺いました。

CMOの役割をどう捉えていて、どんな人がCMOとしてふさわしいと思うか、また経営者の目線で、CMOを目指すマーケターに持っておいてほしいマインドセットや、さらに現場マーケターが明日からやるべきことについてお話しいただきました。

今この時代に必要とされるCMO、一緒に仕事をしたいと思えるマーケターの条件について貴重な談話をお届けします。

※本記事は2023年5月18日(木)にアライドアーキテクツ株式会社 Letro事業部が開催したセミナー「Direct Talk Tokyo 2023 produced by Letro」の内容を編集したものです。

小林氏 西井氏

(向かって右から)
・オルビス株式会社 代表取締役社長 小林 琢磨 氏
・株式会社シンクロ 代表取締役CEO 西井 敏恭 氏

飛躍的成長を実現したブランドは、全社でマーケティングに取り組んでいる

ーいま、CMOの存在が必要とされている一方で、「どのような人材が最適なのか?」に関して曖昧な部分も多いと感じます。事業会社のトップの方が、CMOという存在をどのようにお考えなのか、現場マーケターのヒントになるようお聞きできればと思います。
まずは小林さん、西井さんそれぞれ、改めて自己紹介をお願いできますか。

小林:
オルビス株式会社 代表取締役社長の小林です。実は弊社には「CMO」の肩書を持つメンバーはおらず、マーケティングドリブンな会社になるためには、全員がマーケティングに取り組む、という考えのもとで事業展開をしています。化粧品を中心に販売する中で、お客様一人ひとりと深く向き合う取り組みを重視すべきだと考え、スマホアプリや、パーソナルAIメイクアドバイザー、パーソナルファンデーションカラーチェックといったコンテンツサービスも企画・開発しながら、CRM(顧客関係管理)構築に注力しています。

小林氏

オルビス株式会社 代表取締役社長 小林 琢磨 氏
2002年 株式会社ポーラ入社。2010年グループの社内ベンチャーで起ち上げた敏感肌専門ブランド株式会社DECENCIA代表取締役社長。同ブランドを50億のビジネスに導いた後、2017年オルビス株式会社マーケティング担当取締役、2018年代表取締役社長に就任。リブランディング、構造改革、組織変革を実行。数々のヒット商品を生み出すとともに、物流センターの自動化やアプリコアのCX戦略の実行などDXを牽引。ポーラ・オルビスホールディングス取締役を兼務。早稲田大学大学院MBA。

西井:
西井と申します。株式会社シンクロの代表と、オイシックス・ラ・大地のCMTという肩書きと、NTTドコモのスマートライフカンパニー シニアマーケティングディレクターと、グロースXという会社の取締役CMOの4つを兼任しています。

前職は、化粧品会社のドクターシーラボで長らくマーケティングに従事していました。

その後起業した株式会社シンクロでは、さまざまな会社の外部人材としていわゆる「プロCMO」を請け負う仕事をしており、その一つでオイシックスのCMOを拝命しています。

小林さんがおっしゃることと同じですが、やはりオイシックスも全員でマーケティングに取り組まなくてはならない、という考えから「CMO」ではなくて、マーケットテクノロジー統括を意味する「CMT」という肩書に変わりました。

そしてドコモには去年から参画しており、「dカード」「dポイント」といったサービスをお客様中心のマーケドリブンな環境下で推進するために、「シニアマーケティングディレクター」として、各事業を横串でマーケティングする役割で参画しているという状況にあります。

本日はよろしくお願いします。

西井氏

株式会社シンクロ 代表取締役CEO 西井 敏恭 氏
株式会社シンクロを設立。株式会社シンクロでは、CMOのアウトソース事業として大手通販、スタートアップの企業など数社のマーケティングを支援したり、企業と提携してデジタル事業を協業している。現在はオイシックスのCMT(チーフマーケティングテクノロジスト)も兼任している。

なぜ急速に「マーケティング×経営」人材が必要になってきたのか

ーまずは、「今の市場環境」についてお聞きできればと思います。
昨今、飛躍が目覚ましいベンチャー企業にはCMOの存在があるなど、CMOに求められる役割が増えてきていると感じます。
その一方で、なぜ急速に「マーケティング×経営」といった人材が必要になってきたのか、マーケット・事業環境の観点で、お二人のお考えをお聞きできればと思います。

村岡氏

(インタビュアー)村岡 弥真人 アライドアーキテクツ株式会社 取締役
大手ガラスメーカー勤務を経て2012年にアライドアーキテクツ入社。2014年よりSNS広告に特化した広告代理事業を立ち上げ、自社最大の事業まで事業拡大を行う。2016年にUGC Centric Creative Platform “Letro”の提供を開始、Facebook及びInstagramのオフィシャルパートナーに。2017年より自社プロダクト事業全体の統括を行い、ベトナムの開発子会社2社の経営も兼任。2018年CPOに就任。2021年取締役就任。

小林:
いくつか視点があります。

マクロ環境で言うと、日本国内は人口減・実質賃金減で、市場環境全体で捉えれば企業にとって厳しい状況になってきています。

そのような中、生活者の購買行動も当然ながら進化しています。

一つのブランドの商品でも「店舗」「通販」「Amazon」などのプラットフォーム、さまざまなチャネルで購入できるようになっていますよね。すると、会社内でも事業部ごとに責任者が分かれ、マーケティング担当役員は宣伝部あるいは商品企画部に紐づくケースが多いと言えます。

しかしお客様視点だと「チャネルの区切り」は実は関係がありません。マーケティングのトップは、事業のトップと連動して考える必要性が出てきていると言えます。

ブランド展開の中では、顧客価値を創出していくことが重要です。その中でお客様の心理・行動の変化を捉える必要があるのですが、従来のマーケティング担当役員の役割では既に通用しなくなってきている可能性があります。

西井:
従来のマーケティングで言うと、人口が増えていく世の中でしたから、良い商品を作って、それを世の中に知ってもらうために広告宣伝を展開すれば、基本的には事業成長を期待できました。

しかし先ほど小林さんがおっしゃったように、人口減かつモノが飽和している時代に、従来のマーケティングに取り組んでも、売れないわけですよね。

市場の環境を認識し「お客様の買いたい気持ち」をどう作り出すかを、マーケターは考えていく必要があります。

従来のマーケティングでは、広告宣伝活動の要素が重要でしたが、今はAmazonのように顧客体験を作り込む要素も重要になってきています。Amazonが世の中に登場し始めた頃、多分皆さん、広告宣伝を一切見ていないと思います。しかし、検索体験が快適だったり、注文後の配送のスピーディーさといったところで、お客様の買いたい気持ちを作ってきたと言えます。

よって、広告宣伝活動以外にも、マーケティング要素が非常に大事になってきていて、まさに会社がマーケティングドリブンになっていかなくてはならない市場環境にあると言えます。

ー西井さんがオイシックスにCMOの肩書きで参画されたのは、どのような課題感のもとにオファーがなされたのでしょうか?

西井:
当時のオイシックスは、実は広告にほとんど取り組んでいませんでした。

そこで私が前職のドクターシーラボで、お客様と繋がるダイレクトマーケティングに取り組んできた背景からオイシックスへ参画し、広告の取り組みを強化していきました。

10年経って、出稿量は当時の10〜20倍程度に拡大し、広告もしっかりできる会社になりました。すると今度はお客様の行動が、PCからスマホへとシフトするという過渡期が訪れ、ECサイトのスマホ対応も必要になってきました。それでスマホサイトやアプリを立ち上げ、そのUI/UX設計なども見ていました。

元々広告主体の会社ではなかったし、顧客体験をどう作るかということには意識が強い会社の風土があると思います。

ー今、オイシックスのアプリの話が出ましたが、小林さんもオルビス社長に就任されてからアプリの取り組みを強化されましたよね。

小林:
そうですね、2017〜2018年頃からかなり投資をしてアプリ運用をしています。顧客登録数は500万件近く、個人情報登録者は300万件を超えました。

先ほど西井さんのお話にもありましたが、人口減・実質賃金減の中では、LTVを徹底的に指標として追求するほかありません。つまりアプリを介して、お客様に深く向き合っていかなくてはならない、と捉えています。

アプリ内には「AIを活用した分析サービス」「記事」など多様なコンテンツを盛り込んでいますが、ダイレクトマーケティングでは、「相関性」を見て深掘りすることが大事です。アプリを使ってお客様がどのような記事を読んだか、どんなパーソナルコンテンツに触れていたかなど、購買行動との因果関係を深く追いかけるためにデータ活用をしようと考え、アプリに投資をしました。

通販では「特定のセグメントに対して予算をかけて、あるタイミングでキャンペーンを打つと、レスポンスが得られる」といった、いわゆる「通販キャンペーン施策」がよくある手法です。しかし私は、この手法は実は、何の因果関係の証明にもならないと捉えています。「なぜお客様が買ってくれたのか?」は分からない。お客様の「買いたい気持ち」を正確にデータで追えていなければ、構造の強いLTVを積み上げていくことができないのです。

だからオルビスでは、従来の通販キャンペーンから脱却し、強いLTVを積み上げていくために、アプリに投資したという背景があります。

direct talk tokyo 2023

最高のマーケティング人材とは

ーまさに西井さんや小林さんがおっしゃるように、例えば「アプリへの投資」といった判断・決断ができる経営人材が、会社に求められているのではないでしょうか。
それでは次の質問です。「最高のマーケティング人材とは」という切り口でお伺いします。
成長事業を担うためにはかなりエクセレントな要件が必要なのではないかと思いますが、どのような人材と共に会社経営をしていくのが魅力的でしょうか?

西井:
そもそも経営自体がマーケティングドリブン、つまり、マーケティング主体で動いていくようにならなくてはならないし、そういった企業しか、今後伸びていかない
のではないでしょうか。

「マーケティングとは何か?」と広く見渡せば、広告宣伝のスキルも必要かもしれませんが、基本的にはお客様にどう価値を提供していくのか、とか、その価値創造を継続させるには、と考え続けることが非常に重要です。「お客様にどう価値を提供していくか、考え続けられる人」が、やはり必要なマーケティング人材なのでは、と思います。

先ほど、Oisixで10年前に広告へ注力し始めて、その後は顧客体験を良くするためにアプリを構築したり、スマホサイトを改修し始めた話をしましたよね。これは顧客体験の最適化を図り、その結果LTVを上げることが目的です。

つまり、経営観点で、事業全体の構造を考え、今後事業成長を継続させるには何に取り組むべきか?と具体的な施策を考えられることが大事です。

ーオルビスさんでは、マーケティングスキル以外の観点で何か求めている要件はありますか?

小林:
私は「人間性」が非常に重要な要素だと思っています。
少し整理して説明すると、会社の目的とは、顧客価値の創出ですよね。顧客価値を創出し、そこから収益をいただくために、マーケティングに取り組んでいるわけです。
よって、リアルにお客様起点で考えてアクションできること、そして、PLに責任を持つことの2つが、私は非常に重要だと考えます。

広告宣伝からいかにCVRを上げるか、メディアミックスをどう考えるか、といった議論は、お客様に会いに行く・聞きに行く発想を起点として行動すべきです。その理由は、世の中に膨大に溢れる情報に惑わされることなく、お客様ニーズを汲んだクリエイティブが作れて「勝つ」結果につながるからです。

それから、もっと具体的なことを言うと、Google Analyticsのような各種ツールの管理画面を自ら見て洞察・判断できる人も大事です。自分で管理画面を見たことがなく、自分の頭でリアルなお客様の行動に関する定量データなどを理解できていない人、「代理店さんの提案ありき」でもなく……数値を根拠に自らアクションできるスキルを持った人材を、活用していく必要があります。

西井氏 小林氏 村岡氏

西井:
私も株式会社シンクロとしてさまざまな企業様を支援する中で、まず重視しているのは、まさに小林さんがおっしゃることと同じポイントです。

つまり、ベースにあるのは「お客様理解にしっかり取り組みましょう」ということなんですね。

ダイレクトマーケティングをやっていると、定性的にお客様を理解できる側面ももちろんありますが、定量的にも分かりますよね。例えば「このバナーを掲載したことで、CTRがこれだけ上がった。理由は?」といったことを自ら追跡・洞察できます。

お客様理解のために、自分で管理画面を見て、そのデータからお客様の行動を洞察する、理解するスキルこそが、非常に必要です。

小林:
はい、もう本当にそうです。

例えば、ユニットエコノミクスの話などもありますが、これはEC部署だけでなく、会社全体で学ぶ必要があると思っています。「特定のクリエイティブを見せたことによって、なぜお客様の行動が変容し、CVRが上がったのか?」といったことを、会社全体で理解できなくてはなりません。

それからもう1点、これからCMOに本当に求められる要素は「組織編成」です。オムニチャネル化で、実店舗やアプリ、カタログ、ウェブ、ECサイトなど、顧客とのあらゆる接点(チャネル)を、お客様起点で貫いていく必要に迫られています。

そうなると、ほぼ事業経営そのものに近くなってきますので、組織編成してマネジメントができる必要があります。今後のCMOとは、CEOとCOOに非常に近い存在になり、もはや、広告宣伝とか商品開発に限定した役割ではなくなってくる、と思います。

西井:
「いかに顧客理解を深めるか」
が大事だと思います。
定量データから、仮説を導き出し、具体的な施策を実行すると「お客様ってこんなふうに反応するんだな」といった、仮説ありきで実行・検証できる一連のスキルが重要です。

D2Cビジネスが台頭し、顧客に直接インタビューして声を聞く手法も多く見られるようになっていますが、定量的な分析・理解も必要で、「自分の勝手な思い」だけで突き進まないことも大切です。

小林:
今、西井さんがおっしゃったようなスキルを備えた人材であれば、結果としてPLも必ず確認しに行くでしょう。管理画面で定量データを見て、仮説を立ててPDCAを回す取り組みを続けていく中で、それが投資対効果として成り立っているのか、自ずと確認しに行きたくなるはずです。日々の施策運用と、PLをしっかり紐づけて考えられることが大事です。

現場のマーケターは、どのように成長していくべきか

ー最後に、CMOを目指していくためのキャリアパスについて伺います。ずばり、お二人から見ていかがでしょうか?

西井氏 小林氏 村岡氏

小林:
繰り返しにはなりますが、CEOに非常に近い存在
であることが必要です。

長期的に事業を俯瞰し、投資家の視点にも立ちながらミッション、ビジョンや幹部採用を考えられて、LTVを上げていくことを考えられる。

結局、「お客様起点」でリアルに思考・行動できることが重要です。その結果が数字となって、PLのインパクトに現れます。

数字を素早く見て判断することが大事なので、やはり管理画面を自ら見て判断し、仮説を立てて、代理店を動かしていけるといったアクションを徹底的に積み重ねて実行できる人こそが魅力的で、そのような人材こそがCMOに就くべきだと思いますね。

西井:
マーケティングと一口に言っても幅が広いので、人によっていろんな職能があっても良いのでは、とは思っています。

ただし、重要なマインドセットとして、お客様の状況をダイレクトに把握し、定量的に経営陣に説明できることが何よりも大切です。

例えば「自社は2年目の継続率が何%で、競合と比較した場合に差があるので、今後このようなアクションを取るべき」といった具体的な説明・提案を定量データを根拠に実行できることが大事だと思いますね。

ー「個人レベルでPDCAを完結させることができ、泥臭くずっとやり続けられるかどうか」といった、行動とマインドセットが大切ですね。

西井:
Google Analyticsだけをずっと見ているのは嫌かもしれないけれど(笑)、お客様の動きを見に行って、仮説を作ったら、その結果はちゃんと自分で最後まで見届けようね、ということです。

小林:
それがPLにどうインパクトを与えるか、というフェーズまで、自分の中でPDCAサイクルが一巡する業務を行うことが望ましいのではないかと思います。