今日のダイレクトマーケティングを取り巻く環境は、広告コストの高騰や各法律の厳格化、クッキー規制によるターゲティング・計測の正確性への影響、生活者のニーズや行動の多様化など、様々な変化と困難の連続です。
そのような中でも目覚ましい成長を続けるブランドに共通するキーワードの一つとして、「インハウスマーケティング」の実践が挙げられます。
そこで今回は、インハウス思考だからこそのスピード感でPDCAを回し、事業拡大に貢献してきた3名のマーケターに、現場で注力しているポイント、外注/内製の線引きやパートナー連携で成果を出すコツ/向き合い方、実際に成果につながった施策事例などをたっぷりお伺いしました。
※本記事は2023年5月18日(木)にアライドアーキテクツ株式会社「Letro」が開催したカンファレンスイベント「Direct Talk Tokyo 2023 produced by Letro 【すごい通販のダイレクトマーケ現場に学び、繋がる】」の一部セッションの内容を編集したものです。
(向かって左から)
株式会社TENTIAL ウェルネス事業本部 マーケティング部 部長 岩松 泰平氏
オイシックス・ラ・大地株式会社 大地を守る会宅配事業本部 定期会員室 獲得・定着セクション 成宮 章悟氏
株式会社バイオフィリア 創業者・取締役 矢作 裕之氏
(インタビュアー:アライドアーキテクツ株式会社 Letro事業部 営業部 部長 今崎 裕二)
今崎(モデレーター/アライドアーキテクツ):
今日は変化の激しい通販業界においても、成果を伸ばし続けている「すごい通販」のマーケター3名をお招きしました。まずは、日々何にマインドシェアを割いているか、重視しているKPIやPDCAを回すうえでの工夫ポイントをお伺いしていきます。
最初はTENTIALの岩松さんに質問です。代理店出身とのことですが、代理店時代と現在の事業会社におけるマインドシェアの違いを教えていただけますか?
岩松(TENTIAL):
TENTIALの岩松です。TENTIALは、2019年に誕生したウェルネスブランドです。「身体を充電するツールで、生涯を通じて挑戦する人を支え続ける。」をビジョンとして、Sleep、Foot、Workカテゴリで日常の健康課題を解決する商品を展開しています。ブランド設立から3年半で50を超える製品を販売し、主力製品であるリカバリーウェア「BAKUNE」シリーズは販売開始から2年で15万枚を超える販売実績を記録しました。
私がTENTIALに参画したのは2021年8月です。それまでは、広告代理店でSNS広告の運用等を通じて、様々な業界のクライアント様のWebマーケティング支援に従事していました。
株式会社TENTIAL ウェルネス事業本部 マーケティング部 部長 岩松 泰平氏
2015年に株式会社デジタルガレージに入社。SNS広告の運用チームを立ち上げ、20名規模の組織まで拡大。広告運用を武器に、コスメ、教育、金融、アプリなど様々な業界のクライアント様のWebマーケティング支援に従事。2021年8月に株式会社TENTIALに参画。TENTIALブランドのマーケティング責任者として、オンライン/店舗含めたマーケティング施策全般の統括を行う。Sleepカテゴリのブランドマネージャーも兼任している。
岩松(TENTIAL):
代理店から事業会社に移ることで、マインドシェアの割き方はとてもシンプルになりました。代理店時代は、複数の顧客対応、媒体とのリレーション、社内のチームマネジメントなどカバーする領域が広く、全てのマインドをお客様の成果最大化に注ぐことが難しい面がありました。事業会社に移った今は、シンプルに現在と未来の売上や利益を達成することにマインドを集中しています。
今崎:
短期的な売上/利益の達成だけでなく、全体の4割は3年後の売上/利益の達成に使っているのが印象的です。どんな意図があってこの配分になっているのでしょうか?
岩松(TENTIAL):
長期視点から逆算して、短期でやるべきことを決めることを重視しているからです。短期だけに集中してしまうと、持続性がなかったり、せっかく取り組んだことも資産化していかなかったりしがちだと思っています。例えば、「広告運用」においても、目の前の短期的な効率を追及しながら広告費を投下し続けたとしても、いずれ天井が見えてきて、苦しい状態が続くと思うんです。長期的な成長には、もっと本質的な改善が必要なはずです。
長期視点を持ちつつも、もちろん事業としては日々のKPIを達成するために、あらゆる手を尽くし徹底的にやりきるイメージでインハウス運用を行っています。
今崎:
日々のKPIとして何の指標を重視していますか?
岩松(TENTIAL):
ユニットエコノミクス(LTV=顧客生涯価値とCAC=顧客獲得単価から計算される、1顧客あたりの採算性を表す指標)が合っているかを重視しています。それを構成する要素として、CPAやF2転換率などあらゆるデータを日々細かく確認しており、何か変化があった時に素早く反応して対策を立てられるようにしています。
今崎:
スピード感をもってインハウス運用を行う上で、工夫していることはありますか?
岩松(TENTIAL):
例えば、日々の広告やECサイト用のクリエイティブの改善を素早く回せるように、自社内に撮影スタジオを作って自分たちで撮影できるようにしました。撮影スタジオを借りてカメラマンに依頼して…というプロセスを挟む必要がなくなるため、仮説立案から実行までのスピード感を圧倒的に早めることができています。
今崎:
続いて、オイシックス・ラ・大地の成宮さんから、「何に一番マインドを割いているか」を「5W1H」で整理してお話しください。
成宮(オイシックス・ラ・大地):
オイシックス・ラ・大地の成宮です。oisixのWebマーケティングに携わって約10年になります。
オイシックス・ラ・大地株式会社 大地を守る会宅配事業本部 定期会員室 獲得・定着セクション 成宮 章悟氏
大学卒業後、某カー用品店に入社。テレビCM・映画CM・新聞・チラシなど販売促進全般を担当。2009年に自社web事業部を立ち上げ、ネット販売事業の店長として従事。2012年5月にオイシックス株式会社に入社。ギフト事業部のマネージャー、oisix事業のPR室副室長・室長を経て、ソリューション事業部ISETANDOORのプロモーション及び、周辺5事業のプロモーションをサポート。現在は、大地を守る会事業のプロモーション及び、他社のデジタルマーケティング/データアナリストを兼務。
成宮(オイシックス・ラ・大地):
「自分が何に一番マインドを割いているか」を「5W1H」で整理すると、マーケットに対してどんな施策をやるのかなど「How」に割いているのは全体の3割程度で、お客様に何を(What)、なぜ(Why)提供するのかなど、お客様について考えることに残り7割のマインドを割いています。
日々のマーケティング業務の現場では「How」に使う時間がどうしても多くなります。ただ、それだけにマインドシェアを割いていると、だんだん目の前のことしか見えなくなってきてしまいますよね。やはり、都度「What」や「Why」に立ち戻ることが大事だと考えます。
今崎:
「What」や「Why」を強く意識するために、現場で行っている工夫はありますか?
成宮(オイシックス・ラ・大地):
お客様インタビューや、それをもとにしたカスタマージャーニーマップの作成を徹底しています。以下は、弊社が作っているカスタマージャーニーマップのほんの一部です。フェーズ毎に細かくお客様の気持ちを想像することで、「How」の精度を上げることを大事にしています。
今崎:
日々のKPIとしては、何の指標を重視していますか?
成宮(オイシックス・ラ・大地):
もっとも重視しているのはLTVです。それを構成する要素として、お試し獲得数、定期獲得数、転換率、解約率や、その他付属する様々な指標があり、それぞれに打てる施策がありますが、大事なのは組織全体として「LTVを上げる」という共通言語を持ち、その視点でHowを実行することだと思います。
今崎:
続いて、バイオフィリアの矢作さんから、事業の立ち上げ期と拡大期におけるマインドシェアの違いをお話しいただけますか?
矢作(バイオフィリア):
バイオフィリアの矢作です。日本初の総合栄養食フレッシュペットフードを開発・ECで販売しています。獣医師監修の手づくりドッグフードが冷凍パックで定期的にご自宅に届く、サブスクリプション形式のサービス「ココグルメ」は、会員数15万人超、売上No.1を獲得し、累計販売食数は1億食を突破しています。
株式会社バイオフィリア 創業者・取締役 矢作 裕之氏
東京大学大学院卒。エンジニアとして、日本オラクル株式会社にてシステム開発に従事した後、株式会社バイオフィリアを共同創業しマーケティング・CRM責任者として従事。エンジニア経験を活かしカートシステム・マーケツール・分析ツールまでを独自開発し、フレッシュペットフードD2C「ココグルメ」を年商14億円、会員数15万人超の国内No1.のサービスへと成長させた。
矢作(バイオフィリア):
2019年6月に事業を立ち上げてから1年くらいの「立ち上げ期」は、がむしゃらに施策の実行にマインドシェアを割いていました。私はもともとエンジニアで、マーケのキャリアを持っていたわけではなかったことも背景にあるのですが、他社から学ぶためにとにかく色々な通販企業のLPを見て注文してみたり。自社のLPや広告クリエイティブを継続的に改善し続けたり…。手数をこなすことで、徐々にサービスを軌道に乗せてきました。
その後から現在に至る「拡大期」においては、引き続き施策の手数をこなすことを大事にしながらも、商品開発により多くのマインドを割くようになっています。
今崎:
CVRや引き上げ率を上げていくために、コンテンツ作りでどのような工夫をしていますか?
矢作(バイオフィリア):
お客様からいただいたエピソードを参考にコンテンツを配信する等、D2Cだからこそできる「お客様目線でのコンテンツ作り」を大切にしています。
今崎:
ここまでインハウス運用において何を重視し、日々どのような工夫を行っているかを伺ってきました。次に、「インハウスを行う企業」として、広告代理店など外部パートナーとの棲み分けをどう考えているかをお聞かせください。
アライドアーキテクツ株式会社 Letro事業部 営業部 部長 今崎 裕二
2016年より広告事業部に参画。通販顧客を中心とした新規営業を担当。その後、アカウントプランナーとしてプロモーション~ダイレクトレスポンスの領域まで幅広く担当。2020年より現在の部署にて、ECの売上向上を支援するUGC活用ツール”Letro”のセールスマネージャーとしてD2Cブランドをはじめとする通販顧客のマーケティング支援業務に従事。
矢作(バイオフィリア):
私たちは99%をインハウスで行っていますが、会社の中にいる人間は同じ商品について考え続けているので、どうしても思考が偏りがちになるときがあります。ですから、外部パートナーに依頼するときは、「脳みそを変える」ことを期待します。インハウスで当たっている傾向はあえて共有せず、外部パートナーには新しい脳みそで一から考えていただくようリクエストしています。
岩松(TENTIAL):
外部パートナーに依頼する際は、専門分野で深い知見を持っている会社かどうかを重視します。基本的にはインハウスで行っていますが、特定の分野をハックするまでにインハウスだけだと時間がかかりそうな場合は、その分野に知見があるパートナーと組むことでスピードを上げられると考えています。
成宮(オイシックス・ラ・大地):
お客様のことを考えることにより多くの時間を使いたいので、外部パートナー運用を7割、インハウス運用を3割で広告運用を行っています。広告はテクニックが必要な分野です。しっかりパフォーマンスを出すためには、専門的な知識がある方と組むことも大事だと考えます。
その一方で、新しい施策にスピーディーにチャレンジしたい時はインハウス運用で行うことが多いです。自分たちで試してみて上手く行ったら、さらに定常的にパフォーマンスを出すために外部パートナー運用に持っていく流れで取り組んでいます。
今崎:
最後に、最近実施して上手く行っている施策について教えてください。
岩松(TENTIAL):
ギフト施策に注力しています。TENTIALはサブスクリプション形式ではなく、単品で買い切りのモデルで商品を提供しているため、LTVをどう伸ばすかが課題でした。そこでロイヤル顧客へのインタビューを重ねたところ、「自分が使ってみて良かったから奥さんに買った、親にプレゼントした」というギフト需要でLTVが伸びている傾向が見えてきたのです。
それ以降、ギフト用のラッピングやキャンペーンの開催など、ギフト対策を進めていったところ、既存のお客様からのLTVが伸びるだけでなく、新規のお客様も増やすことができました。
矢作(バイオフィリア):
ペット業界向けのオフラインイベントに1年間で20回ほど参加し、延べ10,000匹以上に試食してもらっています。私たちの商品は飼い主さんが食べるわけではなく、実際のお客様はワンちゃんネコちゃんたちです。実際に食べてもらい、飼い主さんにその様子を見ていただいた上で、私たちの商品のどんな点が魅力に映るのか/映らないのかについての本音を理解するよう努めています。
成宮(オイシックス・ラ・大地):
お客様目線でのコンテンツを届けるために、お客様が投稿してくれた感想、レビューなどのUGCを、冒頭のキャッチコピーや伝えるべきベネフィットなど、LPの制作そのものに活かしています。
また、UGC活用ツール「Letro」を使って、LPのコンテンツの中にUGCそのものを掲載する取り組みも行っています。LPを見ている方に対して企業目線で一方的に情報を伝えるよりも、UGCを活用して「商品や商品がある生活を疑似体験できる機会」を提供することでリアル感が増し、実際にCVRが1.22倍~1.66倍上がる成果につながっています。
今崎:
皆さま、本日は貴重なお話をありがとうございました!
記事公開日:2023.07.07