日本におけるBean to Barの先駆けとして、2014年に誕生したスペシャルティチョコレート専門店「Minimal - Bean to Bar Chocolate -」(以下、Minimal)。カカオ豆の現地買い付けから職人の手仕事で製造されるMinimalのチョコレートは、世界最高峰の品評会で金賞を受賞するなど、国内外から高い評価を得ており、業界を牽引する存在になっています。
Minimalは「チョコレートを新しくする」をミッションに掲げ、100年先を見据えた”三方良し”のエコシステムの実現を目指しており、マーケティングにおいてもお客様との持続的な関係構築に重きを置いています。
今回は、ECチームリーダー兒嶋 仁視氏にインタビュー。
同ブランドがUGCに感じている価値や良質なUGCを生む体験設計のポイント、具体的なUGC施策の取り組み、それによって得られた成果についてお話を聞きました。
背景
解決策
成果
ーMinimalの、事業のビジョンや大切にしていることを教えてください。
兒嶋氏:
Minimalは、ブランドビジョンとして「チョコレートを新しくする」を掲げています。
カカオ産地は、今でも搾取や貧困など多くの問題を抱えています。それは旧植民地時代からの産業構造の影響で、カカオ農家がコントロールできないところでカカオ豆の価格が決まってしまうためです。良い豆も悪い豆も一緒くたに取引されるため、カカオ農家は、カカオ豆の品質よりも取引量を重視し、とにかくたくさん生産しようとしている場合がほとんどです。実際に、チョコレートの味を知らないカカオ農家もまだ多くいます。
Minimalでは、生産者(カカオ農家)、お客様、作り手(Minimal)の”三方良し”のエコシステムの実現を目指しています。カカオ農家と協同して高品質のカカオ豆を栽培し、適切な価格でカカオ豆を買い取ることをしています。高品質のカカオ豆を使い、我々が良い商品をつくることができれば、お客様に今までにない風味や味わいを届けられ、お客様の生活が彩られます。そして、お客様に満足していただいた対価を我々が頂くことで、またカカオ豆を買うことができます。この循環が続いた先には、チョコレートに関わる産業構造の変革もそうですし、今までにないチョコレートの楽しみをもたらす、新しい「文化」が待っていると思います。
我々が発信するメッセージや会員プログラムには、こういった思想がギュッとつまっています。
株式会社βace ECチーム リーダー
兒嶋 仁視 氏
ー次に、Minimalがマーケティングにおいて大切にしていることを教えてください。
兒嶋氏:
いかにお客様と継続的な関係を築けるのかという観点で、ブランドのコアメッセージをぶらさず伝え続けていくことを大切にしています。
スイーツって、本当に「シズル感の戦い」なんですよね。画角が寄りでとろっとしていてというのが基本の戦い方になるのですが、それだけだと継続的なお客様のつながりは生まれてこないと思っています。とにかくシズル感を演出してお客様に買っていただくというのは、短期のCPAを下げていくという観点からすると良いと思うのですが、「これを食べたらもう虜だ!ずっと買い続けます!」といったことは正直あまり起こり得ないと思っています。
妥協のないものづくりはしつつも、チョコレートを食べる前後の情報やブランド思想を知っていただく、”背景も含めて味わえる体験”こそ、お客様との持続的な関係性を生むものだと考えています。その関係性があるからこそ、LTV向上に繋がっていくと感じています。
実際に、リピーター様に「買い続けている理由」をアンケートで伺ったところ、8~9割の方がブランドへの共感が買い続ける理由のひとつになっていました。数値としても出ているので、コアメッセージを伝え続けることの重要性を感じています。
ー2020年まで店舗での販売が中心でしたが、コロナ禍を機にECでの販売に注力されていらっしゃいます。ECの体験づくりにおいて、気を付けていることや工夫している点を教えてください。
兒嶋氏:
店舗であれば、スタッフの説明を聞き、チョコレートの味や香りを確かめ、五感をフルに使って購入できますが、ECでは視覚情報のみです。手段としては、テキストと画像、動画になるので、そこでいかに伝えられるかの戦いになってくると思います。Minimalでは、背景をいかにわかりやすく説明するのかという観点で、語り部を変えることを意識しています。ただ単に補足情報として説明するのではなく、「このケーキの開発担当者は、レモンを一滴ずつ絞ってそれぞれ味を確認し、ちょうど良い理想的な酸味にしました」といったように、「人」を基点に、その人の視点で伝えるようにしています。
サイトやLPでも、ブランドのコアメッセージや商品の背景を伝えることを大切にしつつも、ミッションヘビーにならないように伝える順番は気をつけています。LPの冒頭でいきなり「僕らはチョコレートを新しくしたいです」と言われても、サイトに訪問したお客様は困惑してしまいますよね。
なので、まずは「美味しそう!」と興味をもっていただくためにも、冒頭はシズル感を意識しています。そこから買っていただくための更なる動機づけのために、コンセプトやメッセージを補足するようにしています。
ー兒嶋様はUGCをどのように捉えられていますか。
兒嶋氏:
2015年頃からUGCという言葉を聞くようになったと記憶していますが、我々にとって、もはやインフラです。Minimalにきてから強く感じるのは、UGCは自分たちが作ってきたもの・発信してきたことの答え合わせだということです。もしあがってくるUGCが「美味しい」だけだったら、確実に僕らの伝え不足じゃないですか。Minimalとして伝えてきたものが、結局、生活者がどう受け取っているかの答え合わせでもあり、実際に伝え方を見直したりと、改善のトリガーでもあります。
ーお客様にとってUGCはどういうものになりえていますでしょうか。
兒嶋氏:
UGCは、新規のお客様には「知るきっかけや、購入の判断材料」になると思うのですが、既存のお客様にとっては「共感材料」になるものだと思っています。サブスクの「CHOCOLATE ADDICT CLUB」は毎月固定の日に送っていて、その日になったら「今月も届いた!楽しみ」「早速食べてみた」など同時多発的にUGCが発生するんです。その投稿に、スタッフがいいねを付けて交流しにいったりすることで、ブランド⇔お客様の間でのインタラクティブ性が生まれたり、お客様同士にとっても「同じ時に届いて、同じことを思っている人がいる」という仲間意識、共感を生むコンテンツになっていると思います。
入口では購入の判断材料になり、しばらく続けてくれる人にとっては共感材料になりうるというのは、非常に面白いと思っています。
ーUGCを受けて、マーケティング施策のアップデートにつなげることはありますか。
PDCAの一環として定常的に行っています。お客さまの定性的なフィードバックを得られるのって、SNS上でのUGCか、カスタマーレビューか、アンケート、インタビューの4つくらいだと思います。事業活動をする上で、「ここを無視するのはまずありえない」という考え方でいますし、何か新しいことを考える時や改善することを考える時は、アンケートやUGCに立ち戻るようにしています。
「CHOCOLATE ADDICT CLUB」で次に届く(23年10月お届け)のは「ザッハトルテ」なのですが、Minimalの完全新商品になります。これもお客様の要望をたくさんいただいたことが、開発のきっかけになっていたりします。
ーUGCがもつ力として「自分ごとの体験の伝搬」(自分自身の体験を語ってくれる人がいて、その話を聞いて体験したいと店舗やECに訪れること)があると思います。こういったUGCを増やすために、どのような工夫をしていますか?具体的な施策があれば、教えてください。
兒嶋氏:
UGCは、自分たちが作ったもの、伝えたことの答え合わせになると思うので、コンセプトを意識したプロダクト開発をしていますし、セールストーク・ライティングにもこだわっています。
「7DAYS CHOCOLATE」という食べ切りサイズのチョコレート7種を、1日1枚ずつ楽しめるセットがあります。もともとはミニチョコレートのテイスティングセットとしていたのですが、商品のコンセプトをしっかり作りにいって、「1日1枚、1週間、曜日の気分に合わせて楽しめる」ものにしました。パッケージも、自立型で立体感があるもの、カレンダーのようなデザインにし、UGCも意識したプロダクト開発をしました。実際に、この形にしてからUGCの量は増えています。
なかなか映えにくい板チョコレートも、僕らはパッケージにカカオ産地を紹介したカードを差し込むようにして、思わず投稿したくなるような仕掛けにしています。
全種食べ比べセット -7DAYS CHOCOLATE-
他にも「Minimalってこういうお店なんだ」を頭でも理解してもらえる体験設計をしています。
店舗商品で、4つのカカオ産地を旅できるというコンセプトの「カカオジャー二―」というパフェがあるのですが、お客様に出す時も、その説明を添えてパフェが提供されます。
商品に感動して「また来たい!」と思っていただくだけでなく「Minimalの商品のここが好き」という「ひとこと」をお客様に持ち帰っていただきたいと僕らは考えています。お客様がMinimalのことを理解し、お客様自身で言語化いただくことで、「自分ごと」となった体験が伝わるUGCが生まれると考えています。
ーUGC施策をスタートした背景を教えてください。
兒嶋氏:
マーケティングにおいて、UGCはもはやインフラだと思っていたのと、以前の職場で、CVR改善の効果を実感していたのもあり、マストで取り組もうと考えていました。
ー数あるCVR改善ツールの中から、CVR最適化プラットフォーム「Letro」を選んだ理由を教えてください。
兒嶋氏:
UXの良さです。UGCの許諾が一括でスムーズにとれますし、管理画面から載せたいUGCを選んで簡単にサイトやLPに掲載でき、UGCごとの効果も見れてすぐにチューニングできます。この運用をワンストップでできるというのが一番の良さだと思っています。一連の快適さ、スムーズさが、Letro導入の理由です。
ーLetroを活用したUGC施策の具体的な内容と成果を教えてください。
兒嶋氏:
ECの売上向上・新規顧客獲得目的で、ECのTOPページや商品個別ページ、Minimalの新作や限定品が毎月届く定期便「CHOCOLATE ADDICT CLUB」の申し込みページにInstagram投稿を掲載しています。
TOPページには、5つのタブに分けてMinimalの世界観にマッチしたInstagram投稿を掲載しています。さらに、Instagram投稿を見て購入意欲の高まったお客様をスムーズに商品購入ページへ誘導できるよう、各投稿に商品購入ページをリンクさせています。
タブ表示機能の表示形式にしたところ、CVR1.34倍(※)と好調な結果となっています。
(※)Letroの Instagram投稿をタブ別に切り替えて表示することできる機能である「タブ表示機能」をもちいた表示形式とLetro表示なしでA/Bテストを実施した結果
定期便の「CHOCOLATE ADDICT CLUB」の申し込みページにおいても、Instagram投稿を収集し、LP上に掲載しています。Letro運用担当者と一緒に、UGCの表示位置やUGC掲載部分のサイトデザイン、周辺バナー画像などについて仮説を立てて検証を行い、最適化するサイクルをまわしています。運用の結果、CVRは2.04倍に改善しました。
特に、UGC掲載エリア上部のバナーを静止画ではなく、動画バナーにしたのが良かったと思っています。動画バナーの方がより訪問者の目を引きつけることができ、続くUGCコンテンツの熟読率が上がったためだと考えています。
やはり、定量的な成果は出ており、UGCはCPAを下げる武器だと感じています。
ーLetroを導入してから、定性面ではどのような変化がありましたか。
定性的には、コンテンツをストックできる点が良いと思っています。SNS上のコンテンツはフロー型の情報で、自社に関する良い投稿もしばらくすると流れてしまいますよね。「Letro」を使うとストック型に切り替えられ、良いお声を残し続けられる。サイト上に重厚なコンテンツが出来上がっていくのが良いなと思っています。
ー最後に、UGCの取り組みに関して、今後の展望を教えてください。
兒嶋氏:
UGC自体がオープンな場で上がらなくなってきているのではないかという感覚があり、オーガニックのUGCにいかにしてたどり着くか、集めていくか、ここに対して課題感があります。
僕らも、先ほどの体験設計の工夫や同梱物にUGCを掲載することで、SNS投稿を意識してもらう仕掛けをしていますが、いかにリアルなUGCを増やし、集めていくかに課題感があるので、ここに対して出来ることを考えていきたいです。
UGCツールといえば「Letro」だと思っているので、ここに関しても引っ張っていただけたらなと思っています。
記事公開日:2023.11.09