【コスメサミット2019 イベントレポート】アテニア・カネボウ・サンスターの担当者が語る「広告が嫌われる」時代に成果をあげる広告施策とは?

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コスメサミット 広告 UGC セミナー
(左から)アライドアーキテクツ株式会社 村岡 弥真人
     株式会社アテニア 新海 喜顕氏
     株式会社カネボウ化粧品 中根 志功氏
     サンスター株式会社 兒嶋 仁視氏

■登壇者
<モデレーター>
アライドアーキテクツ株式会社 Chief Product Officer 兼 上級執行役員
 村岡 弥真人

<パネリスト>(五十音順)
サンスター株式会社 ダイレクト営業部 デジタルグループ長代行
 兒嶋 仁視氏
株式会社アテニア 営業戦略本部 通販事業部部長
 新海 喜顕氏
株式会社カネボウ化粧品 コミュニケーション企画グループ兼務 花王株式会社 化粧品事業企画部
 中根 志功氏

ここ数年、生活者のニーズ・行動は多様化を極め、それに伴い企業のマーケティング活動も目まぐるしく変化してきました。
こうした変化の中で企業担当者が抱える課題は多種多様であり、従来型の方法では容易には解決できない難易度を極めたものとなっています。

こうした背景の中、アライドアーキテクツでは2019年7月3日(水)、東京渋谷のTRUNK (HOTEL)を会場に「コスメサミット2019 produced by Letro」を行いました。
「業界のマーケティングにおける課題を共有し、より良い未来を創出する」を目的に、コスメ業界に特化し3つのテーマについてのトークセッションが実施されたこのイベントから、今回は「Session1 コスメ業界が直面する広告のリアル」についてレポートをお届けします。

広告はなぜ嫌われるのか?

初めに、本セッションのテーマ「コスメ企業担当者が直面するリアル」の1つである「広告が嫌われている」という問題について、スピーカーの3名がその要因についてどう考えているのかをお伺いしました。

3名からあげられた「広告が嫌われる」理由は、下記の通りです。

・嫌われていると言われているのはデジタル広告であり、その理由は望まないタイミングで望まない広告がでてしまうため(兒嶋氏)
・ユーザー導線を邪魔したり、接触回数が短期間に5回を越えたり、購入商品の広告がでたりしてしまうため(中根氏)
・選択に疲弊するような情報量の増加や、期待以上の訴求内容による買い物の失敗で芽生えた懐疑心のため(新海氏)

3名の意見から見えてきたのは「広告接触環境の変化」「広告効果の可視化が進んだ」ということです。

昨今、生活者のメディア接触環境は目まぐるしく変化しています。「スマホが日常生活において欠かせないものとなり」(新海氏)、「ひとりあたりが持つ端末やディスプレイの量が増えている」(中根氏)状況のなかで、生活者の接触する情報量は増え、広告接触機会も増加しています。さらに「デジタルデバイスは従来の広告メディアとはメディアに向かう態度そのものが違う」ため、「望まない広告が望まないタイミングででてくる」ことが多く発生し、それが「広告が嫌われている」理由になっているのではと言います。(兒嶋氏)
また、生活者が「何かに追われている感覚を抱いている」(中根氏)点や、「消化しきれない量の情報に接触しなければならない」(新海氏)点についても、「広告が嫌われる」背景として指摘されました。

コスメサミット 広告 サンスター 事例
サンスター株式会社 兒嶋仁視氏(写真右)
入社以来一貫してダイレクト事業に従事。
現在はグループ長として同社のダイレクト事業におけるデジタル領域を統括している。

一方広告を運用する企業の問題点として「データが可視化できるために数値面にこだわり過ぎてしまう」(兒嶋氏)ことや、「売上を求めるために生活者の心理や文脈を配慮した施策ができていない可能性がある」(中根氏)こと、「CPA至上主義によって企業間の競争が加速している」(新海氏)ことが、生活者の望まないタイミング・頻度・過剰なクリエイティブでの広告出稿を招いている可能性が言及されました。

とはいえ、各社ともに広告費は増えているといいます。マーケティング施策において広告が果たす役割・ニーズはまだ多くあり、広告効率を数値で可視化・分析していくのは大切ですが、「生活者の心理や文脈を推測した」(中根氏)広告コミュニケーションが重要となってくるようです。

意外と取り組まない!?認知目的の広告施策

本セッションでは事前に「認知」「新規獲得」「既存顧客」という施策目的別にオンラインとオフラインの広告施策の状況について登壇各社からヒアリングを行い、下記のような一覧にまとめました。

広告 コスメ 施策

こちらの結果で特筆すべきは、各社ともに「認知目的」として広告施策は成果があがっていなかったり、積極的に取り組んでいないということです。

この要因として指摘されたのは「広告指標の設定」が難しいという点です。

中根氏は「広告指標は売り上げ軸でみており、売上に直結しない認知施策はよい数字がとれない」ために、他の目的の広告と比較するとどうしても成果があがっていないようにみえると指摘。また、事業戦略上、成長のために必要な新規顧客の獲得数が定められているアテニアでは、「認知施策」が最終的に売り上げに対してこれくらいのアシスト効果があったというような数値が可視化できれば実施したい気持ちもあるが、現状ではできないので難しいと述べています。(新海氏)

サンスター兒嶋氏はこれについて「認知目的の広告」と「獲得目的の広告」については社内でも予算を分けて運用していくべきであると主張。その成果についてはCMOのような立場の人間が、トータルで施策をみて評価するような体制が必要だと言います。

コスメサミット 広告 事例 アテニア
株式会社アテニア 営業戦略本部 通販事業部 部長 新海 喜顕氏(写真中央)
1998年入社。入社以来通販事業に従事。販売企画課長、宣伝部長を経て19年から現職。

一方で、新海氏はそもそもダイレクト主体のビジネスにおいて、認知にのみ目的をおいた施策の必要性はあるのかについても言及。生活者が接する情報量が多い現代においては、企業の様々な施策から得た情報の相乗効果により購買が生まれています。企業にはこれらを可視化して施策を組み立ていくことが求められています。(新海氏)
また、新海氏は「生活者が商品を購入する際に認知していなくてもパッと買うこともあるかもしれない」と感じていることや、アテニアが「一流ブランドの品質を3分の1の価格で」販売するコンセプトをため、マス施策や大掛かりな予算を投下する認知施策よりも商品開発などに予算をかけていきたい方針があることも説明しました。

認知目的の広告施策については、事業戦略としてそこを実施しない選択もあるようです。

事例①SNS広告×UGC(※)で成果をあげる/サンスター株式会社

続いては登壇3社から持ち寄られた事例の紹介です。
最初に紹介されたのはサンスター株式会社のUGCを使用した広告施策です。

(※)UGCとは:
UGC(User Generated Contents)とは企業ではなく、一般ユーザーによって制作・生成されたコンテンツのことを言います。 最近はInstagramなどSNSに投稿された写真や動画などが UGCとして注目されています。

同社では、広告クリエイティブはパートナーに制作してもらうものという意識を変え、UGCを活用したSNS広告のクリエイティブならば自社でも制作可能ではないかと考えました。それを体現する施策の1つとして実施されたのが、社員・パートナーから「自分がSNSに投稿するなら」というテーマでUGCを募集する「クリエイティブ選手権」です。

サンスター広告×UGC
クリエイティブ選手権によって集まったUGCの一部。最終的には100枚ほどの写真が集まった。

集まったUGCは、一部を除きほぼすべて広告のクリエイティブに採用。その中からCPAの良いクリエイティブも見つかったと言います。また兒嶋氏は、自分たちでは想定していなかった「商品が見切れている」「全体的に暗い」といったUGCが実は効率のよいクリエイティブであったエピソードにも触れ、この取り組み自体が社員のクリエティブに対する意識をあげることにも寄与したと振り返りました。

次に紹介されたのは、同社で実施しているSNS広告の運用テクニックです。
同社では広告クリエイティブ自体に「いいね」や「コメント」「シェア」などのエンゲージメントが発生するSNS広告の特性に着目し、新規獲得目的の広告を一度既存顧客へ配信。
「自分が使っている商品の広告がタイムラインに現れるとリアクションしたくなる」顧客心理を利用して、クリエイティブに既存顧客からのエンゲージメントを貯めました。このエンゲージメントが貯まったクリエイティブは広告ロジック上良いクリエイティブと判断されて広告は出やすくなり、効率的な広告運用が可能になったと兒嶋氏は語ります。
また、既存顧客からのシェアによって発生したリーチでは広告消化がされないため、実際の消化予算以外のところでコンバージョンが発生し、広告の効果を高めることもできたと言います。

この運用方法は、一度既存ユーザーに当てるため、既存顧客のロイヤリティを高める施策にできる可能性もあり、兒嶋氏は今後はそういった部分についてもトライしていきたいと述べました。

事例②企画設計を工夫したキャンペーンでUGC生成率70%を達成/株式会社カネボウ化粧品

続いて紹介されたのはカネボウ化粧品の美容アプリ「スマイルコネクト」で実施されたTwitterキャンペーンの事例です。

同アプリは主に既存顧客に向けたCRM施策の1つとして運用されています。
ですが同社ではアプリをきっかけとして既存以外の「見込み顧客」ともつながっていきたいという思いがあり、その施策として公式Twitterアカウントの運用を開始。それに伴いフォロー&リツイートキャンペーンを実施しました。

コスメサミット 広告 カネボウ 事例
株式会社カネボウ化粧品 コミュニケーション企画グループ兼務 花王株式会社 化粧品事業企画部  中根 志功氏 
2001年入社。メイクブランド「テスティモ」の商品開発とマスマーケティングや、同社のDMP導入・運用推進などに従事。
現在は同社のコミュニケーション企画グループと花王化粧品事業企画部を兼務している。

キャンペーンを通してTwitter上にいる美容に関心の高いユーザーと繋がりたいと考えた同社は、キャンペーンのインセンティブを美容好きなユーザーの興味を喚起するであろう「コットン1年分」に設定。
キャンペーン終了後10名の当選者には、インセンティブ発送時に、インセンティブの写真投稿を促す手紙を同封しました。この働きかけにより、7名の当選者が同社の指定したハッシュタグをつけた当選商品の写真をTwitterに投稿。UGC生成率70%という高い結果を残しました。

これは同社がオフラインで行なったイベント等でユーザーに働きかけた場合と比較しても、圧倒的に高い数値であったそうです。中根氏はキャンペーン成功の要因として、インセンティブのインパクトや、投稿促すハッシュタグがユーザーに投稿意欲を持たせるものであったことなど、企画設計が肝となった施策であったと振り返りました。

カネボウ UGC 事例 Twitter
実際に当選者に送られた商品に添えられていた手紙。
インセンティブを発送して終わりではなく、そこからコミュニケーションやUGCが発生するように設計されている。

カウンセリング化粧品を販売するメーカーとして、中根氏自身、顧客の商品購入を後押しする「信頼」については強く意識しているといいます。
商品の良し悪しだけではなく、「その人が薦めてくれる」という理由で購買が発生するカネボウ化粧品では、SNSを含むデジタルの施策についても「信頼してもらえるか」ということを念頭に実施していると言い、特にSNSではユーザーの信頼を得ていくためにUGCの重要性を感じていると述べました。

事例③三人称で語られたクリエイティブで「見られる広告に」/株式会社アテニア

最後は株式会社アテニアのLINE Ads Platformでの施策事例です。

新海氏は、「広告が嫌われている」という問題について、そもそも広告との接触機会が増加したことにより、生活者は「広告を無意識レベルで視界から排除しだしている」のでは、と言います。そんな生活者による「広告の無視」に対して、広告を見てもらうために同社が行なっている対策は「三人称」で語られる広告クリエイティブの活用です。

広告バナーに載せるテキストを第三者が語る口コミ風にしたこの広告クリエイティブは特にCTRの面で効率がよかったと新海氏は振り返ります。
一方CVRについては具体的な金額などが書かれた一人称クリエイティブの方が高い結果となりました。

アテニア 化粧水セット クリエイティブ
実際に使用された広告クリエイティブ例。左から右の順にCTRは改善、反対にCVRは一番左のクリエイティブが良い。

これらの検証結果から新海氏は、効率的な広告運用のためにはオールリーチなのかリターゲティングなのか等の配信手法に応じたクリエイティブの工夫の必要性について強調。同時に、広告の配信面ごとに生活者の接触態度に変化があることから、成果をあげる広告運用には、施策の目的に応じてクリエイティブと配信面を分けて運用していくことが重要であると述べました。

ブランドイメージを保ちながらUGCとうまく付き合っていくには?

続いて話題は、サンスターやカネボウの事例でも触れられた「UGC」の活用についてにうつります。

生活者目線で発信されたコンテンツであるUGCは、必ずしもブランドのイメージや伝えたい世界観と一致するものではありません。故に、UGCの活用についてはブランドイメージを損なったり、発信したいメッセージをぶれさせるのではないかという懸念がついてまわります。

コスメサミット 広告 セミナー
アライドアーキテクツ株式会社 Chief Product Officer 兼 上級執行役員 村岡 弥真人
大手ガラスメーカーを経て、2012年、アライドアーキテクツに入社。大手企業を中心に、SNS黎明期において新規営業に従事し、2014年、SNS広告に特化した新部署を設立。2017年より現職に就く。

これについて、「百貨店ブランドなどでは特に大変」としつつ、薬機法への配慮やブランドマネージャーとの折り合いをつけるための多少の加工を行えば、十分有効に活用できる可能性があるというスタンスを示したのはカネボウの中根氏です。
そして、直接広告クリエイティブに使用せずとも、企業サイドでは作ることのできないUGCがSNS上にあることは有り難いと述べ、効果的な活用法については今後も検討していきたいと述べました。

また、アテニアでは広告から遷移するLPにおいて、作られた感じや広告色を減らしてリアル感をだすために、UGCを活用しています。
新海氏はUGCを活用した広告クリエイティブを使う場合、LP上でもそれに対応したものを用意することで成果があがるといいます。特に、同社が現在Instagram広告で使っているLPでは、リアルタイムでUGCが掲出される仕様になっており、こうした最新の声があがってくる状態が明らかにコンバージョンの改善に寄与している実感があるそうです。(新海氏)

これからの広告コミュニケーションのあり方とは?

最後に、コスメ業界でマーケティングに携わる立場として、今後どういった広告コミュニケーションをとっていきたいかについて伺いました。

サンスター株式会社 兒嶋氏

「明確な答えはありませんが、やはりテクノロジーの発展とともに、ある程度(広告を配信する相手が)こういう人なんだろうなというのは分かってくると思います。ただそこで文脈を読み取ることはまだ機械にはできないと思うので、その文脈をくみ取って施策に落としていくのは、人間の想像力ですよね。こうした想像力は必要になってくると思っています。」

株式会社カネボウ化粧品 中根氏

「Facebook広告でのコンバージョンデータを使ったターゲティングがあるように、購入履歴があるお客さんとそうではないお客さんに対する文脈は、しっかりとわけて施策を行なっていきたいと思います。」

株式会社アテニア 新海氏

「広告だけで、どうこうできるとはもう思っていません。マーケティング戦略全体のなかで広告の位置付けを考えたとき、ブランドのファンを作り、そのファンが広告塔になっていくような施策を実現するための、アシストのような広告運用になっていくかなと思っています。広告単体でどうにかするということについては、今後はあまり考えないようにしたいです。」

今セッションでは「なぜ広告が嫌われているのか」「いま、どんな広告施策をとっていくべきなのか」、広告施策を考える姿勢から、効果的な運用方法、クリエイティブの重要性など様々な話題がとびだし、まさに「コスメ企業担当者が直面する広告のリアル」に溢れた内容となりました。

マーケターには今後ますます、広告が果たすべき役割や実現できることを見極め、生活者の心理を想像することが求められそうです。