京王百貨店×CEPs分析|「ぼんやりした訪日客の姿」が鮮明に。アンケートで見つけた来店のきっかけとリピーターのニーズ

売上につながっているのは、どんなお客様で、どのようなきっかけで来店しているのか。特に、訪日客は、国内のお客様に比べて会員情報を持ちにくく、購買実態の把握に課題を持つ企業は多いのではないでしょうか。
訪日客で賑わう東京・新宿駅にある京王百貨店も、同様に課題を感じていました。中華圏向けのRED(小紅書)をはじめ各市場向けにSNSで継続的に発信し、来店のきっかけづくりを行ってきました。ただ、その発信が来店につながっているのかを測る材料も、次の発信を考える材料も、国別・カテゴリー別の売上データしかありませんでした。
そこで、免税商品を購入した顧客を対象にアンケートを独自に収集。しかし、少人数のチームではデータの整備や分析が追いつかず、施策に生かせていない状態でした。
そうした中で活用したのが、アライドアーキテクツのデータプラットフォーム「Kaname.ax Global」です。その結果、売上データだけでは見えなかった気付きや新たな仮説が得られました。
本記事では、京王百貨店インバウンド担当の桧山(ひやま)様と菰田(こもだ)様に、Kaname.ax Global活用までの経緯と、活用の結果得た気付き、今後の生かし方までを伺いました。
サマリー
背景
- 施策の判断材料は国別・カテゴリー別の免税売上のみで、来店理由やリピートの実態が見えていなかった。
- 免税カウンターで購入者アンケートを実施しているが、分析や施策への落とし込みまでは至っていなかった。
- RED(小紅書)など海外向けの発信に取り組んできたが、その効果が見えていなかった。
内容
- アライドアーキテクツのデータプラットフォーム「Kaname.ax Global」でアンケート回答約2,200件を分析。
- 国・地域別、初回・リピーター別に、来店目的・認知経路・満足した点などを比較。
- 自由記述の回答を、CEPs(カテゴリーエントリーポイント)の視点で分析。
成果
- 事前に京王百貨店を知っていた人は、知らなかった人に比べて食事目的の来店が約3倍。SNSでレストランを紹介してきた取り組みの効果がうかがえる結果に。
- 初回とリピーターで求めるものが異なり、その違いが国・地域によっても変わる傾向が見え、市場ごとの媒体や訴求を考える材料に。
- 同じ中華圏でも、香港はアパレルの購入希望が多く、台湾はCEPs分析で「アクセスの良さ」を京王百貨店の体験価値として特に強く感じているなど、地域ごとの違いが見え、発信内容を出し分ける示唆に。
売上の数字だけでは見えない、その裏にある顧客像を知りたかった

営業企画部 インバウンド担当 桧山氏(左)菰田氏(右)
ー前回の取材から、ご担当のミッションや注力しているテーマに変化はありますか?
*前回の取材内容はこちら
桧山氏:
ミッションは店舗の認知度向上で、そこは変わっていません。知ってもらえれば来ていただけて、結果として売上につながると思っています。一方で、売上の数字だけでは見えないところがあるとも感じていました。それが独自に実施していたアンケートを通じて少しずつ見えてきていたところに、Kaname.ax Globalのお話をいただきました。
ーお客様アンケートは、どのような経緯で取り組まれていたのですか?
菰田氏:
お客様の購入動向を売上の数字でしか捉えられていませんでした。どの国・地域のどのような人が何を目的にご来店されているのか、リピーターはどんな人で何を求めてリピートしているのか。売上という結果の数字でしか把握できないのでは、仮説の検証も、最適な施策の検討もできないと思い、まずはお客様にアンケートを取りたいと考えました。
桧山氏:
免税売上が順調に伸び、会社として、訪日客をリピートにつなげていくことが課題になりました。ただ、具体的なお客様が見えていない中で何をすべきか判断できませんので、まずは実態を知ることから始めようと、免税カウンターでのアンケート実施にたどり着きました。
お客様アンケート開始後に立ちはだかった壁
ーアンケートはどのように集め、これまでどのような発見がありましたか?
菰田氏:
2025年に入ったころから、免税カウンターでお客様ご自身のスマートフォンからご回答いただくアンケートを実施し、データを蓄積しています。
発見としては、リピーターが想定より多かったことです。また、SNSや口コミ、KOL・KOCの投稿をきっかけに当店を知った方が意外と多いことも分かりました。
桧山氏:
何となく感覚的に思っていたことが、実際のお客様の生の声として拾えたとき、「やっぱりそうだったんだ」と腹に落ちる結果もいくつもありました。
ーアンケートの実施において大変だった点はありますか?
菰田氏:
少人数のチームで日々の業務を行う中で、結果をまとめて分析する時間をつくるのが本当に大変でした。
特に大変だったのが自由記述です。有効でない回答を取り除き、テーマ別に分類するなど、分析以前にデータを整備するための軸の設計なども必要なので、何度も心が折れました(笑)。さらに、そこから施策に落とし込むところまではできておらず、施策を考える指標も国別・カテゴリー別の免税売上しかない状態でした。

Kaname.ax Global活用の決め手
ー弊社からKaname.ax Globalの提案を受けた際、何が導入の決め手になりましたか?
菰田氏:
決め手は、翻訳前の生データをそのままお渡しするだけでいいことと、クロス分析ができることです。クロス分析はずっとやりたかったのですが、リソースも限られる中で着手できずにいました。海外のお客様が当店を思い浮かべるCEPs(カテゴリーエントリーポイント)を出せる点にも興味がありました。データ整備から苦労していたので、データを渡すだけで分析できるのはとても魅力的でした。
ーKaname.ax Globalを活用した分析にあたり、懸念はありましたか?
桧山氏:
懸念よりも、期待の方が強かったですね。菰田がまとめた結果である程度見えている部分もありましたが、それを別の角度から、もう一歩踏み込んだ分析をしていただくことで新たに見えてくることがあるのではないかと思いました。
事前に京王百貨店を知っていたお客様ほど「食事目的」で来店
ーKaname.ax Globalの分析レポートをご覧になって、率直な感想はいかがでしたか?
菰田氏:
とにかく多くの気付きがありました。一番衝撃だったのは、事前に当店を知って来店されたお客様は、知らなかった方に比べて食事目的で来店している方が多かったことです。実は、SNSで1年かけてレストランを一軒ずつ取り上げて発信してきたので、その効果が出ているとも読めます。レストラン限定のクーポン施策などもやってきたので、非常にうれしい結果でした。

桧山氏:
また、何となく感覚的に見えていたことを、データで裏付けられた点もありました。例えば、東アジアのお客様と、欧米や東南アジアのお客様とでは買い方の傾向が異なり、国・地域ごとの生活や慣習、価値観の違いが表れていると感じました。
CEPs分析で見えた、国・地域ごとに異なる「京王百貨店の体験価値」
ー自由記述をCEPsの視点で分析した結果は、いかがでしたか?
菰田氏:
来店のきっかけや、当店を想起するという軸で自由記述を分析していただいたのは、私たちにはなかった視点でした。すごく価値のある分析だと感じています。
桧山氏:
例えば、「アクセスが良く、移動の負担なく時間を有効に使える」という満足感は、台湾のお客様にいちばん強く表れています。一方で、香港のお客様は「一か所で欲しいものをすべて揃えられる」という点がやや低めでした。リピーターが多いので、目的を持ってお買い物にいらしているのだろうと思いました。
中華圏を一括りにしていたことへの気付き

ー市場別の比較で、特に印象に残った点はありますか?
菰田氏:
香港が印象に残っています。香港のお客様は他の地域よりリピーターが多いですが、当店ではあまりお土産をご購入されていません。日本旅行に慣れている方が多いので、周りの方に配るお土産はディスカウントストアなどで買う、というように買う場所が決まっているのかもしれません。一方で、他地域のお客様と比べてアパレルを買いに来る方が多いという結果が出ていたので、香港のお客様は、当店では誰かへのお土産を買うのではなく、ご自身のものを買いにいらしているのではないか、という仮説が立てられました。
これまでは中国・台湾・香港を一つに括り施策を行っていたので、その中でも国・地域ごとに違う購買行動をしているというのは、大きな気付きでした。
ー香港のお客様は、京王百貨店への要望として「免税・割引」を挙げる割合が、他の国・地域に比べて高い結果でしたね。
菰田氏:
ご自身のものを買いにいらしているのであれば、香港のお客様向けに、お得にお買い物いただけるイベントなどがあれば、喜んでいただけるかもしれません。

初回とリピーターでニーズが違う。数字だけでは見えなかった顧客像
ー初回来店とリピーターの比較からは、どんなことが見えましたか?
桧山氏:
独自アンケートを始めたときから、リピーターが多いという気付きはありました。ただ、リピーターが何を買っているのかなどは、これまで深く掘り下げてきませんでした。それが今回の分析で、国・地域別にリピーターがそれぞれ何を求めているかなどが見えてきました。
例えば中国のお客様では、初めてご来店された方は「歓迎されている」と感じられることを求めているけれど、2回目以降はそれが当たり前になっているようです。複数回ご来店いただいている方ほど、賢く買えた満足感、つまりより良いものをお得に購入したいというニーズが深まっている。こうした違いが国・地域によっても変わることが、気付きになりました。今回の結果は他の部署にも共有したいと考えています。売上とは違う視点での発見があると思います。
「これまでぼやけていたものが、霧が晴れてきた」

ー分析結果を、今後どのように施策に生かしていきたいですか?
菰田氏:
私たちの役割は、SNSなどで来店のきっかけをつくり、認知していただき、どうリピーターになっていただくかです。そのためにどのようにより興味を持ってもらえる情報を発信できるか、そこに尽きます。国・地域ごとに、どの媒体で何を発信すれば届くのか。今回のような分析結果があれば、具体的な施策が生まれる流れができます。また、SNSの発信に限らず、提携している旅行サイトでも国ごとにどんな情報を出すべきかを分析結果を元に考えられそうなので、そこにもまだ伸びしろがあると感じました。
桧山氏:
SNSも、今は同じ素材で言語を変えて訴求していますが、理想はREDなら中国のお客様に向けた訴求をするなど、国・地域ごとにチャネルや訴求内容を最適化することです。売上や認知につながるような、効果が高いと見込まれる投稿には広告予算をかけていく、といったことも現状はまだできていませんが、今回の分析結果を受けて、やっていこうと話しています。
これまでぼやけていたものが、霧が晴れてきたように感じています。自分たちがやってきたことは間違っていなかったという気付きもあれば、こういう視点もあるんだという新しい発見もたくさんありました。
菰田氏:
これまでPDCAで言うところのPlan(計画)とDo(実行)はやってきましたが、Check(評価)とAction(改善)まではなかなか至らない状態でした。今回のKaname.ax Globalの分析をもとに、そこにもっと取り組んでいけそうだと感じています。
多様な国・地域へアプローチしたい企業にこそ、来店客の声の分析を
ー最後に、Kaname.ax Globalの導入が向いていると感じる企業様の特徴を教えてください。
桧山氏:
顧客視点で、国・地域ごとにインバウンド売上をどう作っていくかを考えている企業様には、すごく参考になると思います。こうした情報は、現地に行って現地の方に調査しても得られません。これから日本に来ようとしている方の情報と、実際に日本に来て買い物や体験をしている方の情報は、まったく違うと思います。
どこを軸に発信の計画を立てるかを考えるうえで、今実際に来ているお客様を理解することは今後の強みになります。

まとめ
京王百貨店では、売上データだけでは見えない顧客の実態を掴むために、独自に購入者アンケートを集めてきました。すでに持っている貴重な顧客の声をKaname.ax Globalで分析したことで、それまで見えなかった国・地域別の来店目的やリピートの実態が見え、SNSでの取り組みの効果を示唆する結果や、新たな訴求軸の発見にもつながりました。
本事例は、顧客の声を分析することで、インバウンド施策の打ち手を国・地域別に具体化、評価できることを示す好例と言えるのではないでしょうか。



