広告費を投じるほど新規獲得の効率が落ちていく——そんな停滞感を覚えていませんか。こうした状況下において、一度選ばれるだけでは終わらない関係づくりがきわめて重要と言えます。そして、その鍵を握るのは、既存顧客に何度も選ばれ続けるための顧客理解です。しかし、手元にある顧客の体験談という資産を、戦略に落とし込む手段がないという課題に直面する企業も少なくありません。ベルトラ株式会社が向き合ったのも、まさにこの課題でした。VOC分析とカテゴリーエントリーポイント(CEPs)を起点に、その資産をどう戦略・施策に変えたのか。
「うちは旅行会社じゃない、マーケティング会社だ」——ベルトラ株式会社の経営陣がたびたび口にするこの言葉には、創業からの企業姿勢が凝縮されています。
同社は1991年の創業以来、マーケティング関連のコンサル事業を経て、2004年より海外・国内アクティビティの取り扱いに特化したOTA(オンライン・トラベル・エージェント)事業を展開。近年は法人向けインフラ事業「Linktivity」やクルーズ事業にも領域を広げています。
しかし、コロナ後の外資OTA参入によって市場環境は一変。かつての成長モデルが徐々に効きにくくなり、「顧客の声をどう資産に変えるか」という新たな課題に向き合うことになりました。
今回は、アドマーケティングチームの町田様に、Kaname.axを活用したCEPs/CExPs分析と、そこから生まれた台湾KOL施策についてお話を伺いました。
ーまず、ご担当されている業務内容と、ミッションついて教えてください。
町田氏:
私が所属しているのはマーケティング部門の「アドマーケティングチーム」です。マーケティング部門には他に「オーガニックマーケティング」チームがあり、これは主に既存ユーザー向けの施策を担当しています。一方、私たちアドマーケティングチームは、新規ユーザーをいかに効率よく獲得していくかをミッションとしていて、Google・YahooなどのSEMを中心に、アフィリエイトや販促プロモーション、優良顧客向けのアプローチなども担当しています。
ーアドマーケティングチームとして、競合環境や広告費の変化について、日々どのような課題を感じていますか。
町田氏:
コロナ前は、現地海外アクティビティのOTA領域において、弊社がほぼ唯一のプレイヤーで、いわゆるブルーオーシャンの状態でした。商品を仕入れれば仕入れるほど売れていくという時期が続きましたが、コロナ禍を経て外資系OTAを中心とした競合の参入が相次ぎ、状況は大きく変わりました。
外資系など資本力のある企業は、コモディティ商品を中心に価格戦略を取っており、弊社が提供してきた「安心安全」「現地サポートが手厚い」という価格以外の価値を評価してくださるお客様は残り続けていますが、価格重視で選ぶお客様はそうした競合に流れていく傾向がありました。
また、検索エンジン側のアルゴリズムも日々変化しています。AIによる検索結果表示(AIO)が広がる中で、従来のSERPs対策だけでは立ち行かなくなってきました。加えて、検索広告は入札制のため、競合の参入もあって1クリックあたりの広告費(CPC)は、コロナ前と比べて大きく上昇しています。海外旅行者数が回復し切っていない中で、広告費だけが上がり続けているという状況です。
こうした状況を踏まえると、これまでのように増え続ける需要に対して広告効率を維持したまま、検索面で顕在化した新規顧客の需要を刈り取っていくという発想では立ち行かなくなってきていると感じています。実際、弊社では前回の購入から1年以内に再度購入いただいているお客様の割合は低いです。新規のお客様を獲得し続けるだけでなく、一度ご利用いただいたお客様にどれだけ多くの商品を購入していただけるか、そして次の旅行でも選んでいただけるかという視点を、あらためて重視する必要が出てきました。
マーケティング部門 アドマーケティングチーム 町田氏
ーそうした課題のなかで、顧客の声に着目した理由を教えてください。
町田氏:
もともと弊社では「購入起点の5セグメント」というマーケティングのフレームワークを取り入れています。何度も購入してくださる「リピーター」、1点だけ購入した「一般ユーザー」、登録のみで購入履歴がない「未予約ユーザー」、1年以上利用のない「離反ユーザー」といった、購買頻度でお客様をセグメント分類し、それぞれに合わせたアプローチを検討していました。この分類をさらに深掘りするために目を向けたのが、お客様の体験談です。
体験談自体は以前から、単純にプロモーションとして扱っていました。サイト上に「これだけたくさんの体験談がありますよ」という見せ方や購入のきっかけにしていただく口コミとしての使い方です。データとしての価値は感じていましたが、それをセグメントごとの分析データとしてどう活かすかというところまでは踏み込めていませんでした。
そんな時にKaname.axのお話をいただいて、「これはまさに、私たちが実現しようとしていたことに近い」と感じました。セグメントごとに体験価値を分析できるという内容が、当時考えていたアイデアと一致しました。
ベルトラは現地アクティビティに特化したOTAとして、豊富なラインナップとレビューを揃えている
ー実際の分析はどのように進められ、その結果を見てどのような印象を持たれましたか。
町田氏:
まず、売れ筋の商品を基準にハワイ・台湾・タイ・韓国の4地域をピックアップし、体験談のCEPsリスニング®︎を行いました。4地域とも同様に分析を進める中で、ポジティブな評価だけでなくネガティブな評価もバランスよく含まれていたのが台湾だったため、最終的に台湾を対象にクリエイティブへ落とし込む検証を進めることになりました。
カテゴリーエントリーポイント(CEPs)という言葉自体は初めて知りましたが、概念としては以前から近い考え方を持っていました。「どんなニーズやどういうメリット・価値を感じてそのアクティビティの参加に至ったのか」というユーザー起点の分析は、私たちも行動データをもとにずっと考えてきたことだったからです。特に、離脱の要因を捉える「カテゴリーイグジットポイント(CExPs)」の考え方については、以前から「アクティビティには参加せずに別のツアーに申し込んだお客様に、参加しなかった理由は何か、どのような働きかけがあれば、結果の行動を変えることができたのか」という視点で行動データを見てきた経験があったため、自分の感覚とすんなり重なる部分が多くありました。
分析を通じて特に印象的だったのは、新規のお客様とリピーターのお客様とで、重視するポイントが明確に異なっていたことです。新規のお客様は「海外旅行を失敗したくない」という気持ちが強く、効率性や価格の安さを重視する傾向がありました。一方でリピーターのお客様は、そこでしか味わえない特別な体験や知識、経験を重視していて、なかでも現地ガイドの質を強く重視していることが分かりました。逆に、ガイドの対応が悪かったケースは離脱の要因にも直結していて、この点はCExPsの分析でも裏付けられていました。
こうした傾向は、これまでも感覚的には「そうなんだろうな」と思っていた部分でしたが、数字や分析結果という形で可視化されたのは今回が初めてでした。顧客対応の現場からクレームの傾向を耳にすることはあっても、購入起点で見た時にどこが重要なのかが改めて明確になったことは、大きな収穫だったと感じています。
分析結果のイメージ。CEPs分析では、お客様の体験談データをもとに、体験価値ごとの言及数を可視化している。
ー分析結果を、実際のクリエイティブや広告配信にどのように反映されたのでしょうか。
町田氏:
分析で見えてきた新規・リピーターそれぞれの価値観をもとに、台湾情報を発信しているKOLの方に動画クリエイティブを制作していただき、一般顧客向け・リピーター顧客向け・比較検証用の従来新規顧客向けの3セグメントで合計18パターンの広告を配信しました。インフルエンサーを活用した動画施策の中でこれほど多くの配信パターンで実施したのは初めてでした。
配信結果は事前の想定通りの傾向が見られました。各セグメントに対してターゲティングクリエイティブを使った配信を行い、広告媒体側の数値をもとにPDCAを回すことで、対象商品・対象エリアの売上貢献が一定数見られました。特に、広告が最終的な購買の直前のコンバージョンだけでなく、最初に接点を作った「ファーストコンバージョン」も含めて分析・改善していくことの重要性がわかり、大きな収穫だったと感じています。また、経験のなかった施策に着手したことで、予算感やスケジュール感を含めた実務的な知見を得られたことも成果でした。
新規顧客向けに配信されたクリエイティブの一例。「確約ツアー」という訴求で、失敗を避けたい心理に応えている
リピーター層向けには「台湾リピーター必見」と銘打ち、日本語ガイドの安心感を訴求
ー今回の一連の施策を踏まえて、今後どのように取り組みを続けていきたいとお考えですか。
町田氏:
今回改めて感じたのは、市場環境や検索エンジンのアルゴリズムが変化していくスピードに対して、半年に一度のペースで分析・施策を実施するだけでは追いつけないということです。これらに順応していくために、もっと短いサイクルで、分析から施策・検証までの一連のサイクルを高速に回していける環境を整え、継続的に取り組む必要があると考えています。
そのためにも、分析結果を眺めて終わりにしないことが重要だと考えています。すぐに行動に移さなければいけないというのは分かっていても、具体的なノウハウが社内になければ、結局手が止まってしまいます。そういう時に頼れる相手として、アライドアーキテクツさんに相談できたのは大きかったですね。分析から施策まで、ワンセットで進められたことが、今回の取り組みの大きな意義だったと感じています。
また、アライドアーキテクツさんに今後期待しているのは、UGC(ユーザー生成コンテンツ)の領域です。弊社では、従来の広告に代わるあらたな集客手段の取り組みも進めています。今回の結果で、顧客の声はさまざまな価値を生み出すことがわかりました。当然、顧客の声を使って新たな集客手法を確立することもできると思っています。特にお客様がSNS上で参加いただいているアクティビティのライトな動画投稿は、お客様自身の声をどう広げていくかによって、集客に活かしていけると感じています。分析と施策をワンセットで支援していただける関係性を活かして、こうした顧客の声を起点にした取り組みをさらに広げていきたいですね。
「顧客の声を施策に落とし込む必要性は分かっていた。それを実際に行動に移せたことが、一番の経験値になりました」と語る町田氏