長年築いてきたブランド力があるからこそ、「今の強みをさらに伸ばせばいい」という発想に留まりがちです。しかし、確固たる認知を持つブランドほど、競合ユーザーが自社を選ばない理由を正面から見つめ直すことが、次の成長の鍵になります。VOC・CEPs分析は、その仮説を実態として検証する手段のひとつです。
株式会社ファンケルは、1981年の創業以来「無添加スキンケア」のパイオニアとして日本市場をリードしてきた企業です。肌本来の力を守り・高めるための研究をし続けています。45年の皮膚科学研究から、商品ごとに最適な無添加設計を行い、「肌にとって必要なものはなにか」「入れるものと、入れないもの」その1滴に、徹底したこだわりを貫いています。そうした、創業時からの思想は、今も基礎スキンケアブランドの根幹に息づいています。
競合ブランドがひしめく無添加スキンケア市場で、今回同社が取り組んだのが、Kaname.ax®を活用した顧客インサイトの可視化です。CEPs分析と複数のユーザー調査を通じ、競合との価値差分と自社ブランドの立ち位置を多角的に捉えていきました。
この決断の裏側には、どのような判断があったのでしょうか。今回は、化粧品事業本部 基礎スキンケアブランドチームでダイレクトレスポンスマーケティングを担当する宮永氏に、VOCとCEPs分析への着目背景から調査設計の評価、組織への影響に至るまでをお伺いしました。
ーまず、ご担当されている業務内容と、ミッションついて教えてください。
宮永氏:
化粧品事業本部 スキンケアブランド 基礎スキンケアグループに所属しており、化粧液・乳液を中心とした基礎スキンケアを担当しています。その中でも、ダイレクトレスポンスマーケティング領域における全体戦略の設計から日々の運用施策のディレクションまで、一貫して担っています。
KPIについては、CPOをはじめとした複合的な指標を追っています。本質的には「どれだけお客様を増やしていけるか」が重要だと考えています。ただし、その際に重視しているのは、単純な新規獲得ではなく、ブランドの価値や考え方にご共感・ご理解いただいたうえでお客様になっていただくことです。そのため、ブランドへの好意や理解を高めながら、新しいお客様との接点を広げていくことが、チームとしての大切なミッションとなっています。
化粧品事業本部 スキンケアブランド 基礎スキンケアG 宮永氏
ー今回VOC・CEPs分析に取り組まれた背景と経緯を教えてください。
宮永氏:
私たちが扱っているのは、「無添加」という創業の価値が宿っているブランドです。だからこそ、この領域を広げていくにあたり、競合他社との差がどこにあるのかを改めて深掘りしたいと思ったのが最初の背景でした。どんな理由で選ばれているのか、逆にどんな理由で選ばれていないのかを理解することが、私たちのブランドの向上や本当の強みを知ることにつながると考えたからです。
市場動向は公開データで把握していましたが、そこで見えてきたのが、無添加スキンケア市場で大きくシェアを伸ばす競合ブランドの存在でした。そのブランドが選ばれる理由を正面から理解することで、私たちの視野を広げたいという気持ちがありました。どんなきっかけで手に取られているのか、どういう価値で選ばれているのか。同じ軸で自社と比較することで、ギャップも見えてくるのではないかという仮説がありました。
本質的なブランドの成長には、メンタルとフィジカル、つまりブランドへの認知・好意と、SKUや価格帯といった購買接点の両方を増やしていく必要があると思っています。それぞれについて、お客様がどんなきっかけで手に取っているかを理解することが、間口を広げるための起点になると考えていました。
こうした課題意識の中で注目したのが、CEPs(カテゴリーエントリーポイント)という考え方です。お客様がある商品カテゴリーに手を伸ばすきっかけや文脈を捉えるこの概念があることは、社内にもすでに浸透していました。しかし、それを仮説ベースではなく実態に近い形で検証できる手段がありませんでした。今回の調査はその問いに答えてくれるものだと考え、アライドアーキテクツ様から最初にご提案いただいた段階から強い関心を持って聞いていました。
基礎スキンケアシリーズ。それぞれの商品に、「無添加」という創業の価値が宿っている。
ー今回のお取組みでは、Kaname.ax®を活用し、VOCデータとパネル調査を組み合わせた顧客インサイトの可視化を通じてご支援させていただきました。従来の調査では捉えにくかったことと合わせて、今回見えてきたものを教えてください。
宮永氏:
これまでも取り組んでいたデプス調査やアンケートといった従来の調査でも、お客様の意識や価値観は見えていました。ただ、実際の購買行動の背景——どういう状況にいる人が、何をきっかけで手に取るのかという文脈が、十分に捉えにくいという課題がありました。
今回のVOCとパネル調査の掛け合わせによって、購買行動の文脈を実態に近い形で把握できました。アライドアーキテクツ様からご提出いただきましたCEPs分析、競合ブランドとのスイッチユーザー調査、興味関心ユーザー調査という3本のレポートを通じて、生活者のリアルな声と数字の両面からお客様像を捉えていきました。従来の調査では届かなかった場所に、手が届いた感覚がありました。
ー今回の調査を通じて、どのような発見がありましたか?
宮永氏:
競合との比較から浮かび上がってきたのが、無添加スキンケア市場において「無添加だから」という理由で商品が選ばれているわけではなく、「肌がブレないから」「肌トラブルが起きなくなるから」という使用実感こそが評価ポイントだという発見でした。さらに、「肌に優しい=効きが弱い」というイメージが消費者の中にあり、無添加という訴求が強みになりきれていないという実態も見えてきました。仮説として持っていた部分もありましたが、ここまでデータとして明確に示されたことで、訴求軸の再設計に向けた確信につながりました。
ブランド別CEPs分析レポート。どんな状況・きっかけでブランドが想起されるかを可視化。
また、市場全体の構造についても重要な発見がありました。「無添加」が従来よりもつイメージである安心・安全への認識から始まり、使用してみた「肌トラブルの少なさ」などの実感へと移行し、最後に日々のスキンケアとして生活に根付いていく——という3段階の構造的特性があることが分かりました。肌トラブルが起きた時だけ頼る「非常時の選択肢」から、毎日のルーティンとして取り入れる「暮らしの一部」へという変化が見えてきたことで、日常使いとしての価値をいかに伝えるかが、市場成長のカギになるということが明確になりました。
さらに、私たちが専門的な領域でずっと研究を重ねてきた強みがある一方で、その専門性の高さが、新たにご利用いただきたいと考えているお客様にとっては、一部で「自分には関係のない難しそうなもの」として受け取られている可能性があることも、今回の調査を通じて可視化されました。このように、ファンケルの強みと同時に、今後の課題も明確になったことで、VOCだけでなく定量データも掛け合わせて分析できる本調査の納得感や信頼性を、改めて実感しています。
「無添加スキンケア市場調査レポート(一部)。「無添加だから選ぶ」ではなく、「無添加は手段」という構造的課題が可視化された。
ー調査結果を社内で共有された際の反応はいかがでしたか?
宮永氏:
無添加市場に対してもともと社内で持っていた仮説がデータとして裏付けられ、今後の戦略のベースとなりうる調査として評価いただきました。訴求の再設計や未顧客へのアプローチという具体的な戦略に直接落とし込めるアウトプットだったことが、チームでも「この調査結果を活用していこう」という言葉をいただけた背景にあると思っています。
また、常に数多くの仮説があるなかで、感覚として持っていたことが、データとして言語化されて、確信に変わる。「もしかしたら」が「やっぱりそうだった」になることで、次のアクションへ踏み出しやすくなる——その体験が、この調査の価値であるとも思います。どんなお客様が、どんなきっかけで、何を求めて手に取るのか。Who・How・Whatの輪郭が、データを通じてつかめました。
CEPs単位で競合との差分を語れるという切り口は、社内でも新しい視点として受け取られました。ブランドの成長について、感覚値ではなくデータを根拠に進められるようになってきています。
ー今回のお取組みを経た今後のブランド展開と、アライドアーキテクツへの期待について聞かせてください。
宮永氏:
「無添加スキンケアです」と伝えるだけでは、私たちが本当に届けたい価値は伝わりきらない。だからこそ「無添加を日常に」をテーマに、「無添加」という言葉そのものに頼らず、使用実感や肌への変化を通じてブランドの価値を伝えていく方向へと、再設計を進めています。
そのためにも、これまでファンケルをご利用いただいていないお客様、いわゆる未顧客の理解を継続的に深めていくことが重要だと考えています。ブランドの成長のためには、既存のお客様だけではなく、それぞれのお客様が持っている購入のきっかけや背景を理解していくことが、ブランドの間口を広げていく鍵になると思っています。調査で得た知見を、訴求の再設計や未顧客へのアプローチという具体的な戦略へと落とし込んでいく——今回の取り組みは、その第一歩になりました。
アライドアーキテクツ様への期待については、今回の体験を通じて感じたことがあります。専門的なリサーチャーが常にプロジェクトに関わってくださり、私たちから出てきたアイデアについても、調査設計の観点から率直にフィードバックをいただけました。調査会社と広告代理店、その両方の機能が一社に揃い、設計から実行まで一貫して伴走いただける体制があることが、今回最も心強かった点です。調査で得た知見を実際のブランド活動に落とし込んでいく上でも、引き続きその力を借りていきたいと思っています。
ブランドの枠の外に目を向け、未顧客理解を次の成長軸に据える宮永氏