導入事例|グローバル事業 アライドアーキテクツ株式会社

1年でREDフォロワー2万・検索指数2倍。伊藤久右衛門に学ぶ、顧客起点×現場発のインバウンド戦略

作成者: グローバル事業編集部|Dec 18, 2025 2:29:24 AM

天保3年(1832年)創業、京都・宇治に本店を構える「伊藤久右衛門」。宇治茶の販売に加え、抹茶スイーツや抹茶そばなどの加工品を展開し、国内外から多くのファンを獲得しています。

コロナ以前より中華圏のお客様は多く対応強化を考えていたものの、コロナ明けにさらに急増し「中華圏のお客様がどこで情報を得ているのかわからない」という課題に直面していました。

そこで選んだのは、まず顧客に直接聞くこと。店頭で100名への紙アンケートを実施して見えてきたのは、中国の主要SNS「RED(小紅書)」が旅マエの情報収集で重要な役割を果たしているという事実でした。RED運用を開始してから約1年、フォロワー数2万人、検索指数は前年比約2倍を達成。REDを見て訪れたというお客様も増加しています。

今回は、同社でマーケティング・販売促進を担当する五十嵐様に、顧客の声を起点にした意思決定プロセス、ユーザー視点を徹底したコンテンツ戦略、そして成果について詳しくお話を伺いました。

サマリー

背景



  • コロナ前より伸長していた中華圏からの訪日客がコロナ後にさらに急増。
  • しかし「訪日客がどこで情報を得て来店しているのか」が把握できず、施策設計が困難だった。
  • 情報源の実態を把握するため、店頭での紙アンケートと現場の声を収集したところ、RED(小紅書)が旅マエの主要情報源になっていることが判明。

内容


  • 顧客の声を元に、RED公式アカウント運用を開始。
  • 認知拡大を目的に、フォロワー数ランキングを指標として設定。
  • 日本人向けInstagramを流用せず、中国ユーザーの文化・価値観に合わせたオリジナル投稿を制作。

成果



  • 運用開始1年でREDフォロワー2万人を達成。
  • ブランド検索指数が前年の約2倍に増加
  • 店頭では「REDを見て来た」「この投稿の商品が欲しい」という来店客が増加し、認知・来店の両面で効果を実感。
  • 今後は、越境ECやリピーター施策、欧米向けアカウント運用など、認知から関係構築フェーズへ移行予定。

コロナ明けで売上比率が逆転。急増する中華圏インバウンドへの対応が急務に

ー御社の事業内容と五十嵐さんの役割について教えてください。

五十嵐氏:
弊社は京都の宇治に本店を構えるお茶屋で、宇治茶の販売と、宇治抹茶スイーツ、抹茶そばなどの加工品を販売しています。私は開発部と企画デザイン室という二つの部署を兼任しており、開発部では商品開発のマーケティング、企画デザイン室では販売促進と企業ブランディングを担当しています。

ー近年のインバウンド需要の変化についてお聞かせください。

五十嵐氏:
インバウンドに関しては、本当に大きく変わりました。コロナ前からインバウンドの売上が増えていましたが、コロナ後の2023年頃からぐんと伸びました。

来店されるアジア圏のお客様の国籍でいうと、中国、台湾、香港が多いです。年齢層は20代から30代が中心ですが、親世代と一緒に来られる方もいらっしゃいますので、幅広いお客様に来ていただいています。
ただ、当時は「どこで弊社の情報を得ているのか」という現状を把握できていませんでした。施策を打つにも、どういった情報が流れているのかがわからなかったので、まずそこの把握が課題でした。

株式会社伊藤久右衛門 開発部・企画デザイン室 五十嵐氏

紙アンケート100名で見えた真実。REDが旅マエ情報収集の重要ツールだった

ーインバウンド客の情報源がわからないという課題に対し、どのようなアプローチを取られたのでしょうか?

五十嵐氏:
現状がわからないので、「それなら直接聞こう」ということで、とてもアナログですが、店頭で紙のアンケートをとることにしました。「観光の情報収集に何を使ったか」「来店は通りがかりか、目的来店か」などといったことを調査しました。

実施したのはコロナが始まる直前の2020年2月の春節時期で、対象は100人くらいでした。お店の一角にスペースを設けて、アンケートに答えてくれた方に景品を差し上げるという形で実施しました。

その結果、来店情報を得ている媒体の1位はMafengwo(馬蜂窩)、2位がWeibo(微博)、3位がRED(小紅書)でした*。REDはアンケート上では3位でしたが、お客様が「REDはいま本当に流行っている」と熱量高く教えてくださったのが印象的でした。京都観光に関する投稿や、弊社商品の投稿もその場で見せていただき、実際どのように使われているかを具体的に知ることができたのもRED検討の後押しとなりました。1位2位の媒体よりも観光との親和性が高く、今後さらに伸びると判断したことから活用を決定しました。

その後は代理店を15社ほどリストアップし、最終的に御社にお願いすることに決めました。

*
Mafengwo(馬蜂窩):旅行者の口コミ・旅行記・観光情報が集まる中国最大級の旅行SNS。
Weibo(微博):中国版Twitterのようにニュース拡散やファンコミュニティが活発な大規模SNS。
RED(小紅書):美容・ファッション・旅行などのレビュー投稿と購買に強い中国のライフスタイルSNS。

伊藤久右衛門 JR宇治駅前店

 

ー弊社へ決められた一番の決め手は何でしょうか?

五十嵐氏:
決め手は、やはり専門性です。中国の方に情報をお届けすることが目的ですので、中国ご出身のスタッフが多く在籍し現地のインサイト理解が深いことや、中国マーケティングラボで情報発信されていること、食品系の企業様を含めた運用実績が豊富にあるということが大きかったです。また、担当の方からは常に納得感のあるお話をいただいたので、御社なら安心してお任せできると思いました。費用面が予算感と合ったというのもあります。

日本の常識は中国の非常識。徹底した顧客視点のコンテンツ作り

ーRED公式アカウント運用において、どのような方針でコンテンツを作られていますか?

五十嵐氏:
まず、目的を認知獲得に設定しました。もちろん、売上に直結する「客数」を指標にできるのが理想ですが、RED経由で来店したかどうかを判別し、継続的に効果検証するのは難しいのが現状です。そのため、まずは「知っていただくこと」が来店の前提であるという考えのもと、認知に特化して取り組む方針にしました。

指標としては、自社名や競合他社の検索数に加えて、日本企業のフォロワー数ランキングを見ています。今回の取り組みは社内でも新しい取り組みだったため、長期的な理解と継続運用につなげるためには他社と比較できる”わかりやすい指標”が必要だと考えました。例えば、「検索数が3倍になりました」と言っても、その成果の大きさが直感的に伝わりにくい。一方、ランキングであれば自社の立ち位置が明確で、社内にも成果を共有しやすいというメリットがあります。


2025年8月度RED飲食店アカウントフォロワー数ランキング

 

五十嵐氏:
コンテンツを作る上で一番意識しているのは、ユーザー目線ということです。情報を伝えたい対象である中国の方たちがどう思うか、をいつも考える必要があると思っています。

今年の夏に出したシャインマスカットと抹茶のスイーツを例にとると、日本人には高級感があって人気のシャインマスカットですが、中国の方にとってはそれほど一般的でないということがわかりました。そこで、季節限定ということだけでなく、シャインマスカットは日本では高級なフルーツとして人気だという情報も伝え、それならぜひ食べたいと思ってもらえるような投稿にしました。

 

日本で高級フルーツとして人気があることも訴求した投稿

秋限定の栗スイーツも同じです。栗は中国では炒めて調理したり食事に使うことが多く、デザートというイメージがあまりないそうです。ただ、栗関連の検索ワードで「栗のスイーツ」というのは結構あるというお話だったので、それならばどんな紹介がいいのか、と考えました。

日本向けInstagramの投稿をそのままREDに転載する方法もありますが、工数をかけても、中国の方に伝わるオリジナルコンテンツを作成することが大切だと考えています。

1年間でフォロワー2万人超え、検索指数2倍。REDをきっかけにした来店が増加

ーRED公式アカウント運用を開始されて、どのような成果が得られましたか?

五十嵐氏:
本当にありがたいことに、フォロワー数は1年間で2万人を達成しました。これは社内でも評価を得ています。また、「伊藤久右衛門」の検索指数は1年前と比較して約2倍に増えました。これは公式アカウントを運用していないと得られなかった成果だと思います。来店効果を定量的に測ることは難しいですが、体感と店舗スタッフからの声で非常に成果を感じています。「REDを見てきました」や、REDの投稿を見せながら「これが欲しいです」というお客様が非常に増えています。

ー運用開始前に想定していなかった成果や発見はありましたか?

五十嵐氏:
運用を開始するときは、効果は徐々に現れるものと思っていました。しかしアカウント開設の初日にフォロワー数1,200人の数字を見たときは驚きました。これは本当に期待以上でした。

他にも想定していなかったことの一つに、ユーザー同士の助け合い文化があります。コメント欄で「これいくらですか?」「どこで買えますか?」という質問に対して、別のユーザーさんが「いくらですよ」「◯◯店ですよ」と答えてくれています。REDにはユーザー同士で助け合う文化があるんだと知りました。

認知の次のステージへ

ー今後のマーケティング施策について、どのようにお考えですか?

五十嵐氏:
おかげさまで認知を獲得できてきたので、実際の来店と顧客満足度をより強化したいと考えています。来店につながるようなインセンティブ企画や、お買い物後の満足度が高まるように、購入商品の美味しいお茶の淹れ方やレシピなどのHow toコンテンツなど。店頭とECをつなぐリピート施策も取り組んでいきたいです。

ー市場の動きが不安定な中、中華圏の訪日客向けプロモーションを見直す企業さまもいらっしゃいます。御社では、この点についてどのようにお考えでしょうか。

五十嵐氏:
市場環境は不安定に見える局面もありますが、私たちは引き続き中国を含む中華圏への取り組みは重要だと考えています。
実数ベースで見ると、中国からの訪日客は現在も大きなボリュームを占めているので、その存在感は依然として高いと感じています。例えば2025年の訪日観光客のうち(2025年10月現在まで)、中国は全体の約23%を占めているんですよね。

つまり4~5人に1人が中国からの観光客です。また仮に訪日客数が半数になった場合でも、単純計算ですが規模としては韓国・台湾に次ぐ水準となり、引き続き主要な市場の一つとして位置づけられると考えています。

また、観光において「距離の近さ」は、為替や一時的なトレンドに左右されにくい要素の一つですし、リピートにもつながりやすいと捉えています。その点から見ても、近距離圏である中華圏に中長期的な視点で取り組むことは重要かと。

もちろん、一国に依存しない分散型のプロモーションを前提としつつ、その中の重要な市場の一つとして、中国向け施策を継続していく方針です。

まとめ

伊藤久右衛門社の事例から見えてきたのは、顧客の生の声接客現場を起点にした意思決定の重要性です。N=100名の紙アンケートというアナログな手法であっても、それと同時に現場の声を丁寧に拾うことで、REDという重要な接点と拡がり方が見えてきました。

そして、運用においては徹底したユーザー視点が成果の鍵でした。「日本人の常識は中国人の常識ではない」という前提に立ち、シャインマスカットや栗スイーツの投稿を工夫するなど、細やかな配慮の積み重ねが、フォロワー2万人、ブランド名での検索指数2倍という成果につながりました。

今後は、認知獲得から関係構築へと次のステージに進もうとしています。越境ECやリピーター施策、さらには欧米市場への展開など、段階的に確実に歩を進める戦略は、インバウンドマーケティングに取り組む多くの企業にとって参考になる事例と言えるのではないでしょうか。