株式会社ビームスは2024年にグローバル本部を設立し、インバウンドマーケティングを本格化させました。それまで「既存事業に上乗せされる副次的な要素」として捉えられていたインバウンドの売上を「戦略的に伸ばすべき要素」へと転換したのです。国別売上データの可視化、中華圏向けSNS(RED)強化、独自施策「BEAMS MAP」などを開始。データドリブンな意思決定と店頭でのリアル施策の融合により、BEAMSが進めるグローバル戦略とその裏側をお伝えします。
豊永氏:
私はグローバル本部の本部長として、海外子会社の支援やグローバルマーケティング全般を統括しています。KPIとしては、各リージョンの店舗売上やEC売上、国内のインバウンド売上、そしてSNSのエンゲージメントやフォロワー数なども見ています。
吉田氏:
私はグローバルマーケティング部で、主に中国・香港・タイといったアジア圏のフランチャイズ店舗の戦略立案とマーケティングを担当しています。また国内では、インバウンド施策に注力しています。
豊永氏:
グローバル本部が設立されたのは2024年です。それまでは、正直なところ「インバウンド売上は既存事業に上乗せされる副次的な要素」という認識があり、積極的に伸ばしていこうという動きはありませんでした。
コロナ禍を経て、国内BtoC・EC・BtoB・グローバルという4本の柱を立て、それぞれを強化していく方針に転換し、その一環として、グローバル本部を立ち上げ、海外展開とインバウンド施策を積極的に進めることになりました。
株式会社ビームス 上席執行役員 グローバル本部本部長 豊永氏(右)グローバル本部グローバルマーケティング部 吉田氏(左)
豊永氏:
免税売上のデータ自体は以前から蓄積されていましたが、「海外からのお客様の売上」という一つの括りで見ていたため、グローバル本部ができたタイミングでそのデータを国別に整理し、可視化するシステムにしました。どの国のお客様がどの店舗でどれくらい購入されているのか、それが見えるようになったことによって、より戦略的に動けるようになりました。
吉田氏:
マーケティング面では、既に取り組んでいた台湾や香港のお客様向けのInstagramでの発信だけでなく、中国本土の方が使われているSNS、例えばRED(小紅書)なども活用し中華圏への情報発信を強化したいと考えていました。
私たちのチームには台湾出身のスタッフがいるので、言語面におけるハードルは低く、どちらかというとRED特有の発信方法や、どういうコンテンツがユーザーに響くのかといった運用ノウハウを求めていました。
加えて、BEAMSは中国・香港・台湾にそれぞれ店舗があります。日本に観光にきたお客様に来店していただくだけではなく、現地の店舗のことも知っていただきたいと思っているので、その両面にアプローチするために発信していく必要がありました。
吉田氏:
中華圏のマーケティングパートナー選定で重視したのは、「BEAMSらしさ」を理解した上で、それを中華圏のお客様にどのように届けるかを一緒に考えてくれるかどうかでした。
ブランドの価値や伝えたいメッセージは、私たちの方である程度考えることができます。ただ、それをREDというプラットフォームでどう表現すれば中華圏の方に響くのか、サムネイルやハッシュタグの付け方一つをとっても、やはりプロの知見が必要でした。アライドアーキテクツさんは、私たちの意図を汲み取りながら、具体的な発信方法を提案してくださったので、そこが大きな選定理由でした。
もう一つ重視したのは、通常のアカウント運用とKOL施策を同じパートナーに依頼できるかどうかです。以前は複数の会社に別々にお願いしていたこともあったのですが、それだと施策同士のシナジーが生まれにくいと感じていました。一貫した戦略のもとでSNSを動かしていただけるのは、効果を最大化する上でとても重要だと感じています。
REDでの発信を続ける中で、少しずつ知見が溜まってきました。お互いに「BEAMSにとって何が最適か」を理解しながら進められるのは、本当にありがたいです。
豊永氏:
実際にアライドアーキテクツさんと進める中で感じているのは、毎月のレポートの質の高さです。どのコンテンツが良い反応を得られてどこに改善の余地があるのか、データに基づいて的確にアドバイスしていただいています。「こういう視点があったんだ」と気づかされることも多く、そこに大きな信頼を感じています。
吉田氏:
BEAMSは国内に約150店舗ありますが、店舗によって取り扱う商品が異なります。海外顧客向けに各店舗の違いをわかりやすく伝えることで、お客様のニーズに合った店舗を知ってもらうことを目的に企画したのが「BEAMS MAP」です。
各レーベルのロゴを印刷したステッカーを対象店舗で配布し、ステッカーの裏面にはQRコードを載せて4ヶ国語(日本語を除く)に対応した特集サイトにアクセスできるようにしました。サイトでは各店舗の特徴や場所を紹介し、スタンプラリー感覚で複数店舗を回遊していただけるように設計しています。
さらに、BEAMSスタッフから集めたおすすめの飲食店や観光スポットをGoogle Mapのリストにまとめました。普段の接客で日本のお客様に伝えているような情報を、言語の壁を越えて海外のお客様にもお届けしたいと考えたのが背景です。またこれは、せっかく来店してくださったお客様に「商品の在庫がなくて手ぶらでお帰りいただくのが申し訳ない」というスタッフの気持ちを和らげる狙いもありました。
また、当初は想定していなかった効果として、このステッカーが接客のきっかけをつくるツールとして機能していることがあげられます。「ステッカーをどうぞ」と声をかけることで、海外のお客様とのコミュニケーションが始めやすくなり、積極的な接客につながりました。嬉しいことに、日本人のお客様からも「欲しい」というお声をいただくようになり、サイトに日本語版も追加しました。
最初は店舗誘導が目的の施策でしたが、顧客満足やエンゲージメントを高める副次的な効果を得られたことは大きかったです。
豊永氏:
データ可視化の効果は、想像以上に大きかったです。たとえば先日、パリでBEAMS JAPANのポップアップを開催したのですが、期間終了後に日本国内の国別売上データを見ると、フランスからのインバウンド売上が国別ランキングで順位を上げていました。
しかも、購入店舗を見ると新宿・京都・渋谷のBEAMS JAPANに集中していました。つまり、現地でポップアップに関する情報を知っていただいた方が、実際に訪日されたタイミングでお店に足を運んでくださっていると推測することができ、施策の効果を数字でも追えるようになったのは大きな変化です。
吉田氏:
地方都市でもインバウンド売上が伸びています。韓国の方は福岡や札幌、台湾の方は福岡での購入が目立ちますし、最近は名古屋も急増しています。国別・店舗別にデータを見ることで、「この国の方はこのエリアを訪れる傾向がある」という動線が見えてきます。今後はそれに合わせた個別施策も展開していきたいと考えています。
豊永氏:
店舗スタッフの意識も変わりました。以前は言語の壁もあって「海外からのお客様には接客しづらい」という声もあったのですが、BEAMS MAPのようなツールができたことで、むしろ積極的にコミュニケーションを取ろうという姿勢に変わってきています。「施策を打つ→数字で効果を確認する→次の改善につなげる」というサイクルが回り始めたことが、何より大きな成果だと感じています。
豊永氏:
インバウンド市場は、今後さらに地方都市へ広がっていくと見ています。東京や大阪といった主要都市だけでなく、福岡、札幌、名古屋といったエリアでも確実に増えている。それぞれの地域に対応できるよう、店舗スタッフの育成も含めて体制を整えていく必要があります。
また、日本ならではの価値を多面的に発信していくことが重要だと考えています。日本製品はすでにインバウンド市場で評価を得ていますが、そういったものづくりへのこだわりだけでなく、食や文化といった要素と組み合わせて、日本でしか得られない体験を提供していきたいです。
吉田氏:
デジタル施策についても、さらに発展させていきます。REDでフォローしていただいている方を、実際に店舗来店につなげる導線をより強化したいです。また、国内向けに取り組んでいるライブ配信を、グローバル展開できないかといった検討も始めています。
豊永氏:
BEAMSは2005年から海外にも出店し、20年かけて認知を築いてきました。今の成果があるのは、その積み重ねがあるからです。インバウンド施策に取り組む上で大切なことは、短期的な成果を求めず、長期的な視点で取り組むことだと実感しています。情報発信は続けなければ意味がありません。時間をかけて認知を獲得してきたからこそ、戦略的な施策をより効果的に成果につなげることができたと考えています。
BEAMSのグローバル事業は、「受け身」から「攻め」への転換により大きな成果を生み出しています。データ可視化による意思決定の精度向上、自社らしさとノウハウ活用の掛け合わせによるREDでの効果的なアプローチ、「BEAMS MAP」による顧客体験の向上など。そして何より、20年という長期視点で築いた認知が、各施策をドライブし成果を支えています。同社の取り組みは、インバウンドマーケティングに挑む企業にとっても、支援する企業にとっても、多くの示唆を与えてくれるのではないでしょうか。